sai包囲網・緒方編 5 - 6


(5)
「緒方先生、やめて!緒方、先生っ!!」
 追い詰められたヒカルの叫び声が浴室に響き渡り、すぐに大きな手で
口を押さえられた。んっ、うんっとしか声が出なくなっても、ヒカルは
頭を振ることによって緒方に拒否を示す。
 大浴場に比べれば狭い浴室の中、頭上から降り注ぐシャワーの湯に打
たれ、ヒカルの肌はほんのりと薄桃色に色づき、柔らかくおいしそうな
果実を思わせる。
 必死に抵抗してみても、ヒカルと緒方では上背も力も違う。そう体格
の変わらないアキラにさえ、あの日、簡単に組み敷かれたことを思い出
して、ヒカルは背筋が凍るような気がした。
 そして、そんなヒカルをただ見ていることしかできない佐為も、その
端正な顔を歪めていた。
『あぁ、ヒカル。私が、この者と打ちたいなどと、言わなければ…』
 せめて緒方の碁打ちとしての思いに応えたいと、ヒカルに無理を承知
で頼んだときは、まさかこんなことになるとは思わなかったのだ。

「こんな時間まで打ってるのか?もう夜も遅いぜ」
 突然後ろからかけられた声に、ヒカルは飛び上がらんばかりに驚いた。
昼間は緒方から逃げ回っていたヒカルだったが、風呂上がりにジャージ
に着替え指導碁を打つ頃には、大広間に緒方の姿がないこともあって、
すっかり油断し切っていた。
 緒方はかなり酔っているようだったが、saiへの追求までは忘れて
くれないようだ。いかさまジャンケンを持ちかけられ、病院と同じよう
にsaiと打たせろと迫られた。


(6)
 ヒカルはもちろんどこまでもとぼけ倒すつもりだった。アキラにさえ
自分とsaiは無関係で通したのに、ここで緒方に尻尾を掴まれるわけ
にはいかない。緒方の口からやはり進藤は怪しいとでも伝われば、また
アキラにどんな仕置きをされるか分かったものではない。触らぬ塔矢に
祟りなし。佐為というりっぱな幽霊を背負ってるにも関わらず、ヒカル
には怒りのあまり生霊と化しそうなアキラの方が怖いようだ。
 しかし、今日は佐為の態度が少し違っていた。緒方と打ちたいと告げ
て来た。またワガママをと返したヒカルだったが、佐為にせめて緒方の
思いに応えてやりたいと言われ、気持ちが揺らいだ。緒方が酷く酔って
いたせいもあり、うまく誤魔化せるかもと考えたのだ。
 オレと一局打って欲しいと持ちかけると、緒方はすんなりと受けた。
緒方は機嫌が良さそうだった。十段になった喜びが湧いてきたというの
は、あながちオーバーな言い分でもなさそうだ。
 せっかく緒方と打てるのというのに表情を硬くしたままの佐為が気には
なったが、勧められるまま緒方と芦原の部屋へ赴き、一局打った。ここ
でも、緒方はsaiの名を口にした。どうやら緒方のsaiへの執着は
アキラ並のようだ。
「なァ進藤、さっきも言ったが、saiと打たせろ」
「オレでガマンしてよ」
 と軽く返したが、いつかはsaiと打ってやるぞと虎視眈々とヒカル
の隙を狙ってるようにも見える。
 ヒカルの先番で始まった一局は、緒方が死活を間違ったこともあり、
佐為の勝利で終わった。石を片付け始めるヒカルに、
「練達な打ち筋…そうだ…まるで…saiと打ったような………」
 と呟く緒方にどきりとしたが、どうやら酒を飲んでの対局ということ
で収まりそうだ。部屋に芦原がいることもあり、ヒカルはすっかり警戒
心を解いていた。



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