金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 5 - 6
(5)
耳にヒカルの息が掛かる。ほんの少し身体を動かせば、その柔らかそうな唇の感触を想像ではなく
直に知ることが出来るのに………。
そんなアキラの気持ちを知ってか知らずか、ヒカルは小鳥のような息づかいでそっと囁いた。
「実はさ………この下トランクス………」
絶句するアキラを面白そうに眺めながら、ヒカルは「見る?」と、スカートを捲り上げようとする。
驚いて、その手を強く押さえつけた。
ヒカルはクスクスと笑った。悪戯好きの可愛い子犬のような仕草で。
「それなのにさぁ………オレ、和谷のトコからココにつくまでに三回も声かけられちゃた……」
「誰もオレが男だって、気付かねえんだ。こんな色気のねえモン穿いてンのにさ…」
と、言って笑う。
キシシ………その笑いに擬音を付けるとしたら、こんな感じだ。
そう言えば、小さい頃に見たアニメにこんな笑い方をする犬がいたな…と、ボンヤリ考えた。
人の悪いちょっと意地悪な笑い方。
でも、そんな笑顔でさえも、アキラを惹き付けて放さない。すごくチャーミングな笑顔だ。
どんなに意地悪な表情をしていても、全然イヤミにならない。裏表のない素直な性格だから、
それが顔に表れる。なので、仕方ないなとみんな許してしまうのだろう。
いつもなら、アキラもそう思う。だけど今日は………
『どういうつもりだ……進藤…』
―――心(しん)から楽しそうなヒカルの態度に、アキラの胸中は複雑だった。
(6)
笑ってばかりでいつまで経っても本題に入らないヒカルに、今度はアキラの方が焦れた。
「どうしてそんな恰好をしているんだ?」
口調がきつくなるのは仕方がない。ヒカルは自分をからかって愉しんでいるのだから。
「だ〜か〜ら〜今から話すからさ…」
ヒカルはアキラの肩をポンポンと叩き、自分の隣の空いている空間を指さした。
座っているヒカルの真正面に身体をかがめて立っている自分の姿は傍目にどう映っていたのだろうか。
キスをする寸前の恋人同士に見えたかもしれない。
アキラは顔を真っ赤にして、ヒカルの横に腰を下ろした。
「そーそー目の前に立たれたままだと話しにくいじゃん…」
無邪気に笑うヒカルの頬をつねってやりたい。実際は睨んだだけだが、頭の中では、ヒカルの
柔らかい頬を思う存分捻り倒した。
「こ…こえーそんなに睨まなくてもいいじゃんか。」
「進藤!」
「わかったよぉ…言うよう…」
ヒカルは急にしおらしくなって、ことの顛末を話し始めた。
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