敗着─交錯─ 5 - 6
(5)
進藤の体は前と同じ味がした。
「ん…」
足を絡ませると、硬いものが当たった。
「早いな…」
「るせえよ…」
抵抗されないのをいいことに、学生服のボタンに手をかける。
「…今度は、破るなよ…」
「分かってる…」
慎重に脱がせると、もう一度顔を見た。
「先生も、脱いでよ…」
頬を染めてワイシャツに手を伸ばしてくる――が、
「……」
ネクタイのノットに指を挿し込み困惑していた。
「ネクタイには慣れてないのか…」
(もういいよ)と進藤の頭をなで、軽く手を握って離させた。
片手でネクタイをほどいて、遠慮のない視線を感じながらシャツのボタンを外していく。
肌を露にすると、飛びつくようにしがみついてきた。
少し鳥肌が立つような感覚と、人肌の温もりに包まれる。
「向こうへいこう…床は冷える」
「ん…」
素直に頷くと、おとなしく抱きかかえられた。
シーツが手の平にあたり、その上に進藤の髪が敷き込まれる。
「こら、離せ…」
抵抗はしなくなったが、まだ不安なのかぎゅっとしがみついてくる。
訳のわからない感情が湧き上がり、また消える。
体重をかけないよう注意して抱き合い、頬をなでると閉じられた瞼を指でなぞった。
(6)
バスは排気ガスを残して発車した。その後ろ姿を見送り、手に持ったメモに視線を落とす。
(この辺りだな…)
いつだったか、進藤が父の経営する碁会所にちょくちょくやって来るようになった時、書いて渡してくれたものだった。
もう随分昔のことのような気がする。
進藤の文字が走るその紙片を大事にしまうと、電信柱に銘記された番地を頼りに日の落ちた住宅街を歩き出した。
――明らかに自分は避けられていた。
何度か電話をかけたが、居留守を使われていることは受話器を通して想像がついた。
――思い当たる節は、ありすぎた。
半ば奪うようにして思いを遂げた自分。そして――
(君の代わり)
緒方の声が頭に響いた。彼のマンションに押しかけたあの日から、頭を離れることはなかった。
「―――」
それは吐き気がして座り込んでしまう程にアキラを苦しめた。
進藤の心を知りたかった。
会って、謝りたかった。自分の非礼を詫び、それから――
自分の代わりだと緒方と関係をもった進藤の優しさが、じくじくとアキラの心を蝕んだ。
進藤──、君はそうやってボクに抱かれたのか?
ボクに抱かれたのは、同情からか?
ようやく、目当ての表札にたどり着いた。
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