暗闇 5 - 6
(5)
塔矢だ。
そう思うとヒカルは再び入ってきて自分の中を激しく犯す熱い竿をさっきとは違う物に感じた。
さっきよりも、その行為はもっとそこを傷付け、痛い。焼けるようだ。
だけどさっきと違うのは、出し入れするたびに何度も何度も接吻してくる男の息が、
ヒカルの嗚咽を優しい物にしていくのだ。溶けるって、こういう事だ。
血で滲んだヒカルの手の甲を優しく握る男の手。抱き起こされて、床に降ろされる。
床に座った男の竿をヒカルは何となく握って、その熱さに慌てて手を引っ込めた。
小さく闇が笑った気がした。
よつんばいにされ、ゆっくり入ってきた時、ヒカルは驚くほどの高い声をあげた。
瞬間、闇がヒカルの中に射精した。ヒカルがあまりに切なげに震えたので、男はたまらずにもう一度射精した。
ヒカルも同時に白い精液を床にまいた。
男は後ろからヒカルの頭を撫でた。ヒカルはぐったりと倒れこんだ。
(6)
次の日。
また帰りの靴箱で『進藤、二人で新しい棋譜を作ってみないか。今夜12時、ここで』と書かれたメモが、
ヒカルの靴箱にあった。
ヒカルはぼんやりとメモを見つめた。
「お疲れ様」
塔矢が自分に声をかけ、すれ違う。
「とう・・!」
真っ直ぐなその後姿に声をかけようとした時、自分の背後で立っている男の気配を感じた。
男の手がヒカルの肩におかれ、ヒカルは恐怖で後ろを振り向けない。
「塔矢君じゃなくて、ごめんね、進藤君」
男が静かに言った。
ヒカルは小さくなる塔矢アキラの背中を見つめた。唇が震える。手の中が汗ばんでくる。
――――わかっていた。だけど、オレ、塔矢だったらって。
そうだったらいいなって、思っただけだ。先生だって事は、小さい頃からオレ、先生の事知ってたし、
ああ、多分って思ってた。塔矢なはずないよ、オレの頭を撫でてくれたの、大人の手だったからって。
だけど。だけどオレ。
「好きだよ、ずっと君の事、好きだったよ。進藤君」
ヒカルは先生に囁かれて涙が溢れた。でも、ゴメン、先生、オレ。
棋院の外に出て、塔矢アキラはふと振りかえって遠くて小さいヒカルを目を細めて見た。
多分きっと、ヒカルも自分の背中を見ている。
塔矢アキラはヒカルが泣いてる気がした。
泣いているような気がしたのに、
ヒカルは散る桜の花びらの向こうで塔矢アキラに手を振っていた。
自分に気がつき、笑っている。進藤。
アキラは、戦う時しか上手く自分を出せない。
『進藤』心の中で呟いて、アキラも静かに微笑み、
進藤ヒカルに背を向けた。
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