交際 5 - 6
(5)
ヒカルが声をかけるとすぐに玄関の扉が開かれた。ヒカルは、アキラの顔を見た途端、
泣きそうになってしまった。すごく不安で心細かったのだ。それなのに、いきなり怒ることはないと思った。
「だから、駅まで迎えに行こうかって、言ったろ?」
アキラのこの物言いにカチンときた。小さな子供を叱るみたいだ。アキラはいつもいつも
ヒカルを子供扱いする。
「地図があれば大丈夫だと思ったんだ!」
実際は地図があっても迷ってしまったが、それは暗くてよく道がわからなかったからだ。
それに、社がヒカルを動揺させるような真似をしたから……。だから……。
「……もういい!塔矢も社もキライだ!」
ヒカルは靴を脱いで、勝手に上がった。アキラを無視して、奥の部屋へと入って行く。
自分は何をやっているんだろう。せっかく、アキラと三日間ずっと一緒にいられるのに、
来て早々ケンカをしてしまった。いや、ケンカですらない。ヒカルが一方的に腹を立てている
だけなのだ。
「何だよ…塔矢のヤツ…オレに会っても全然喜んでくれねえし…」
―――――もしかして、逢いたいと思っているのはオレだけなのかな……?
この考えは、ヒカルを酷く悲しくさせた。
(6)
「……何かあったのかい?」
アキラは社に訊ねた。あそこで自分に腹を立てるのはわかる。だけど、ヒカルは社にも
怒っていた。社はヒカルに何かしたのだろうか…?
「…別になんも…」
社はすました顔をしていたが、口元に微かに笑みを浮かべていた。そして、ヒカルの
消えた部屋の方をジッと見ていた。その目つきが気に入らない。
『進藤をそんな目で見るな!』
と、怒鳴りたかった。
「なあ、進藤ってメチャ可愛いな?」
唐突に言われて、アキラは面食らった。どう答えるべきか。同意すればいいのか、否定すれば
いいのか。ヒカルが可愛いのは分かり切っていることだが、社の意図が見えない。
「アイツ、メチャメチャおぼこくて、可愛(かい)らしいわ…」
アキラの返事も聞かず、社は続ける。初めから、アキラの答えなど気にしていないのかも
しれない。
「もしかして、まだ、毛も生えてないんとちゃうやろか?」
この一言に、頭がカッとなった。なんてことを口にするんだ。
「―――――生えてるよ…」
憮然と言い放つ。
社は、一瞬呆気にとられたようにアキラを見つめたが、
「……ふーん…そーゆーこと…」
と、一人納得したように呟いた。
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