天涯硝子 5 - 6
(5)
「俺、進藤を傷つけちまう…」
冴木はそう言って、ヒカルのズボンのボタンを外し、一気に下着を下ろした。
弾かれたように、ヒカルの性器が現われる。ヒカルは足をばたつかせ、冴木が膝近くまで下ろしたズボンを脱ぎ、裸になった。
「…進藤、後ろに−−」
冴木は身体を起こしてベルトを外し、ジーンズを脱ぐ。
「−−後ろの座席に行って」
ヒカルはのろのろと這うようにして後部座席に移った。
移動しながら、自分の身体が震えているのに気がついた。
寒いのではない。いつまでも慣れない暗やみのせいでもない。
本当は冴木とこんな風になりたいと思っていたわけではなかった。
あの時、エレベーターの中で佐為と冴木の姿が重ならなかったら、冴木を意識することなどなかった。
抱き上げられ、頬にキスされて「女の子ならよかったのに」などと言われなかったら、
あんなに大胆に冴木を自分に引き込もうなどとしなかったろう。
女の子なら−−。冴木にそう言われた時、急に突き放されたような気持ちになった。
冴木に好意を寄せているのに、自分が男のために(そんなはずはないのだが)関係が切れてしまうような気がした。
−−オレが女の子だったら
−−オレが佐為がもっと碁を打たせていたら
何もかもが大きく違っていたら、こんなに淋しい思いをしなくても済んだかもしれない。
冴木が頬に口付けたのが始まりのような気がした。だから、口付けでなら冴木を繋ぎ止めることができるかもしれない。
佐為にやさしくされたように、冴木にやさしくされたい。自分だけが見えていた佐為と同じように、冴木を独り占めしたい…。
自分の口付けに応えて、身体を高ぶらせ、裸の胸を合わせているというのに、
いつまでも確信に触れてこない冴木に焦れて苛立った。
無意識に冴木を独占したい気持ちに駆られ、少し冷静になってみれば、自分でも思ってもみないほど冴木に大胆なことをした…。
しかし、ヒカルはもう裸になってしまった。冴木も同じだ。
身体に触れて唇を寄せるだけ。胸を合わせ、鼓動を重ねるだけではもう済まない。
男同士でも身体を繋げる方法があることを知識だけでは知っていた。
世の中の男の中には、女性と抱き合うより、少年や男と抱き合いたい者がいるのだということも、いつのまにか知っていた。
知ってはいたが、今、まさに自分がひとりの男を受け入れようとしているのだということに、ヒカルは震えだした。
他ならぬ自分が冴木を誘ったのだ。もう逃げるわけにはいかない。
ヒカルは冴木に抱き寄せられた。吐息が顔にかかる。間近に冴木がいるのに、闇に慣れないヒカルの眼には冴木の表情は見えない。
さっきと同じように、首に腕をまわそうとして手を冴木にぶつけてしまった。身体がこわばっているのがわかる。
そして冴木にも、ヒカルが先程とは打って変わって身体を堅くし、震えているのがわかった。
「どうしたんだ…進藤」
「…冴木さん、オレ…」
言うまいとするのに、思わずこぼしてしまった。
「…オレ、初めてで…その…」
声がうわずっている。ヒカルは冴木が怒り出すのではないかと思った。
しかし冴木はヒカルを抱きしめ、その顎を捕らえて、やさしく口付けた。
「大丈夫だから…。出来るだけ、やさしくするから…」
冴木はゆっくりと柔らかなヒカルの髪を梳きながら言った。
ヒカルは座席にそっと横たえされた。
冴木はヒカルの片足を持ち上げ、座席の背もたれの上に踵を引っ掛けるようにして大きく足を開かせた。
その足の間に、冴木が腰を当てて来る。続いてヒカルの上に覆いかぶさり、ヒカルの頬を両手で包み、額やまぶたに柔らかく口付けた。
少し浮かせた腰に冴木の堅く重くなった性器が押しつけられ、ヒカルはこれから起こるだろう痛みを想像して身震いした。
冴木はヒカルの頬から首に口付けを移動させながら、片手をヒカルの中心に添える。
ゆっくりと形をなぞるように指をからめられ、撫で上げられると秘そめていた声が思わず零れてしまった。
冴木の指の動きが気持ちいい。
先端からこぼれ出る雫を指で広げられ、張り詰めた中心をさらに強くこすられて、ヒカルは下腹をひきつらせた。
「…ん!…はぁっ…あ!」
冴木の手の動きにヒカルの身体が連続して跳ね上がる。
喉を反らせ、胸を反らせて股間から湧き上がる快感の波に身体を揺らし続けた。
無意識に、さらに快感を得ようと自ら腰を動かし冴木の手の動きに合わせて押しつける。
やがて甘く刺すような快感に支配され、さんざん嬲られた後、ヒカルは自分の精を冴木の手の中に喘ぎながら放った。
「…!!…ぅ…ん…」
(6)
下腹に流れるそれを冴木は指ですくい、ヒカルの後ろの門を濡らした。
ヒカルのその入り口を指をそろえて撫でさすった後、指をゆっくりとヒカルの熱くなった身体の中に侵入させる。
指を入れられ、蠢かされる感覚にヒカルは首を振った。
「……んんっ」
「進藤のここ、…柔らかいな」
ヒカルの胸に口付けていた冴木が、少し笑いを含んだ声で言う。
すぐに指の数を増やし、今度はより深く中に押し込み、指を曲げて中を抉るようにしたとたん、
ヒカルが身体を仰け反らせ悲鳴を上げた。
「…ン、アァッ!」
「…?!」
どうやらヒカルの一番イイところに、いきなり触れてしまったらしい。
「…ここが、イイのか?」
冴木がヒカルの耳元に口を寄せて聞いてきた。
ヒカルは自分が上げてしまった声と、冴木の指の動きに湧き立った身体の中に隠されていた感覚に驚いて、黙り込んでしまった。
「ここか?」
冴木が同じ場所を強くこする。
指先で突くようにするとヒカルの後ろの門は強く冴木の指をしめつけ、
ヒカルは強烈な快感に火のように包まれて、さらに大きな悲鳴を上げた。
「…ヒ、アアァッ!」
ヒカルのそこは、冴木の指を飲込み吸いつくようにしているというのに、
ヒカル自身はその焼かれるような快感から逃れようと、もがき始めた。
「…ああっ…ああ!はぁっ…いや!いやだっ…!」
身体をびくつかせ冴木の腕に爪を立て、冴木を身体から押し退けようとする。
ヒカルの小さな身体の、そんな抵抗を封じ込めることなど冴木には簡単なことだった。
冴木は体重を掛け、激しくよがり狂うヒカルの身体を押さえ込むと、
指を三本に増やし、さらにヒカルの中の薄い粘膜を突き破ろうとするように指を立て、
その場所をきつく責め立てた。
冴木の腹の下で、ヒカルの歳の割りにはまだ幼い性器が痛みを伴いながら再び固く張り詰め、
びくびくと震えだす。
「ああっ!あぁ!離してぇ…いやあぁぁぁ!!」
ヒカルが頭を打ち振るい、喘ぎながら何度も高い声で訴えた。
ヒカルは背を大きく反らし、息を弾ませながら重く痺れるような快感の余韻の中にいた。
やっと冴木から解放され、ヒカルは溢れてしまった涙をぬぐった。
爪先にも指先にも蜜の中を泳ぐような甘い感覚が残っていて、
涙を拭くために手を顔に持ってくるのがやっとだった。
冴木は指を引抜き、胸を大きく上下させているヒカルの身体に、
生きていることを確かめるように指をすべらせた。
そして何もヒカルに声を掛けないまま、ヒカルの腰を抱え上げ、
膝に滑り上げるようにして自分のモノを押し当て、昂ぶった身体をヒカルの中に沈めていった。
まだ、冴木の指が身体の中にあるような感覚が残っている。
それを打ち消すようにヒカルの中に冴木自身が入ってくる。
ヒカルが身を捩らせ、甘い声をあげて強い快感から逃れようとするのを、
力でねじ伏せてきた冴木に、ヒカルは今までにない恐さを感じていた。
やさしくするとは言いはしたものの、もう冴木はそうできないだろう。
体格の差を頭の隅において、やさしく扱おうとする理性などとうになくし、
獣ののような荒々しさでヒカルを責め立てて来るだろう。
その証拠に指でいかされ、息を乱したまま快感の余韻に浸るヒカルを少しも休ませずに、今また貫いてきている。
落とし込まれる冴木の熱い塊にヒカルが身を震わせている。
異物が侵入してくる圧迫感に腹が破れそうだろう。
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