光明 5 - 7
(5)
アキラは雪がうっすらとおおった道を早足で歩き家路へと急いだ。
まだ少し雪がちらついている。寺院にかなり長居してしまい遅くなってしまった。
もう初詣に行くのか この寒い中かなりの人が賑わいながら歩いていた。
その中にヒカルと背格好のよく似た少年の姿がアキラの視界に入った。
気になり目で追ってみたが別人だった。アキラの脳裏にヒカルの顔がフッとよぎった。
アキラは歩いてきた道の反対方向へ いきなり体の向きを変えて足早に歩き始めた。
自分がなぜそのような行動を取るのかアキラ自身よく分からない。
頭が思うより体が先に動いているような状態だった。
ただアキラは これだけは理解出来ていた。
「進藤に会いたい。」という想いが今の自分を支配している感情であるという事を。
雪は小降りになったとはいえ30分程外にいれば頭や肩にうっすらと雪が積もる。
アキラは今まさにそのような状態だった。
ヒカルの家の電話番号・住所は以前ヒカルに教えてもらい手帳にひかえていたので
家を見つけることは容易だった。
でも大晦日の夜更けに他人の家を訪ねるのは常識はずれである事は百も承知なので
ただヒカルの家の前で立ちすくしていた。
アキラは自分の取った行動に自分で驚き呆れていた。
「本当に馬鹿だなボクは・・・。
進藤の家の前でこの寒空の中30分も立っているなんて何を考えているのだろう。
父さん達もきっと心配しているだろうな。・・・もう帰ろう・・・。」
冷えて感覚が鈍くなりかけている足を引きずり帰ろうとするアキラの目に いきなり強い光が飛び込んできた。
(6)
「あれ そこに誰かいるの? もしかして・・・塔矢か?」
アキラは一瞬何が起きたのかすぐ理解出来なかった。
長い間暗い所にいたので目が強い光を受け入れるのに少し時間がかかった。
聞き慣れた声の主が また自分に話しかけた。
「お前塔矢だろ こんな時間にどうしたんだよ?」
やがてアキラの目には玄関のドアを開けて家内の電気の明かりを背にしたヒカルが
ハッキリと映った。
「・・・進藤・・・?」
「うわぁあっ お前 頭と肩が雪で真っ白だっ! 何やってんだよっ!!」
ヒカルはアキラの元へ走り寄り、アキラの体に積もった雪を手で急いで払い落としながら
「どうしたんだよ いったい?」とアキラに訪ねた。
「あっ、いや たまたま近くを通ったものだから・・・。」
何を言ったらいいのか アキラは うまく言葉が見付からない。
あまりその事を探られたくないので「進藤は これから何処かへ出かけるのか?」と逆に聞き返した。
ヒカルは黒いジャンバーを着て首には緑色のマフラーを巻いていた。
「ああ。近くのコンビニへ行こうと思って。お母さん オレが頼んだ物を買い忘れたんだぜ? ったくもうっ!」と
ヒカルは口を尖らせて言った。
大晦日の夜更けに出かけてまで買うものって何だろうという素朴な疑問がアキラに湧いた。
「で、何を買いに行くんだ?」
「CCレモン」
「・・・CC・・レモン?」
「あれがなくて年を越せるかっつーうの!」
(7)
アキラは拍子抜けて目を丸くし それと同時に笑いが込み上げプッと噴出した。
「あっ 笑ったなぁ塔矢! CCレモンをバカにするな オレは好きなんだよっ!」
いたく憤慨するヒカルを横目にアキラは腹を抱えて笑った。
自分の中で緊張した何かがヒカルと会った事で ゆるやかに解けていくのを感じた。
「いや・・・キミらしいなあと思って。」と涙目で答えるのが精一杯だった。
ヒカルに会えて良かったと素直に思った。
アキラはヒカルと一緒に歩き出した。ヒカルが行くコンビニがアキラが帰る方向と同じだった。
「お前も無茶するなあ。風邪引くぞ。」
「そうだね。自分でもそう思うよ。」
いっそう冷え込みが増して寒さが厳しくなり両耳がピリピリと痛み出した。
寒さと同時に空気が一段と澄んできて二人の話す声が辺りに軽く響く。
やがてコンビニに着き、ヒカルはカゴに目当てのCCレモンとスナック菓子を次々と入れた。
アキラは体の芯が冷え切っているので とりあえずホットコーヒーを買い一足先にコンビニを出た。
店の明かりが かろうじて当たる駐車場の隅で店を背にしてコーヒーを飲み やっと一息ついた。
その時「塔矢!」とヒカルの声が後ろから聞こえたので振り向くと
アキラの左頬に柔らかく熱い物が当てられた。
「・・熱っつ! 何するんだ進藤っ!?」
アキラの頬に当てられたのは肉まんだった。
「へへっ さっきオレを笑った仕返しだ。 お前体冷え切っているだろ それ食えよ。」
「あ・・ありがとう。」とアキラは肉まんを受け取った。
正直食欲はなかったがヒカルの気遣いが嬉しかった。
ヒカルの左腕にはジュースのボトルとお菓子が入ったビニール袋をひじにぶら下げ、
左手は沢山の肉まんが入った紙袋を抱えていた。
そして 一個の肉まんを右手で約3・4口でガツガツと食べ、あっという間に平らげた。
華奢な体によくあれだけ入るものだとアキラは感心した。
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