痴漢電車 お持ち帰り編 5 - 8


(5)
 「電話してよかった……遅いから、探しに行こうとしてたんだって……」
心配をかけてしまったことに対する罪悪感からか、ヒカルはションボリと項垂れた。
 こうなったのはヒカルのせいではない。誰が悪いかというと、アキラが一番悪いのである。
むろん、門脇達にも責任がないわけではないが………
 だいたい、こんな格好のヒカルを外に出したりするのは危険だ。アキラじゃなくても
他の悪いヤツに攫われているに決まっている。
 もっともアキラは、門脇には感謝している。
『こんなに可愛い進藤をボクの前に連れてきてくれてありがとう』
と、手を握って礼を言いたいくらいだ。

 アキラはさりげなく話題を変えた。
「家の方には連絡しなくてもいいの?」
「うん……今日は和谷んとこに泊まるって言ってあるから……べつにいいよ……」



…………………………と、言うことは、ヒカルは今晩ココに泊まるつもりなのだ………!
バンザ――――――――――――イ!!心の中で、バンザイ三唱を十セットばかり繰り返した。
「進藤、お風呂沸いたみたいだよ。入るだろ?」
ニコニコ笑うアキラに、少々怯みながらもヒカルはコクリと小さく頷いた。


(6)
 浴室にヒカルを送り出して、その間に自分はタンスの中を物色する。ヒカルが着られそうな
新品のパジャマを引っ張り出した。
「………でも、コレ、女物なんだよね……お母さん結構ウカツだからな………」
アキラはこういうことはあまり気にしないが、ヒカルはどうだろうか。怒って泣かれたら、
どうしようか………。かと、いって他にめぼしいものはない。仕方がない。コレでガマンしてもらおう。
それから………そうだ……下着はどうしようか。
「ボクのでいいかな。」
真っ新の下着をとりだして、パジャマの上にのせた。

 アキラは脱衣所に着替えを持って入っていった。ヒカルは既に風呂場に入っていた。
磨りガラスを一枚隔てた向こうに、一糸纏わぬ姿のヒカルがいる…………。
 「進藤、背中流してあげる!」と、叫びながら、乱入したい………イヤ、ガマン。ガマンだ。
アキラが理性を総動員して、耐えていると、
ぴしゃん――――――――――
と、背後で水の跳ねる音が聞こえた。
 その音だけで、欲望をかき立てられた。胸の奥がもやもやしている。

 今、ヒカルはどんな格好で湯船に浸かっているのだろうか…………見たい…覗きたい…
無意識のうちにガラス戸に手を掛けかけていた。慌てて手を引っ込めた。
 『とりあえず、今夜一晩だけでも約束を守らないと――』
………アキラは大きく深呼吸をした。


(7)
 気持ちを落ち着け、床に置かれた脱衣籠に目をやった。その中には、セーラー服と下着が
入っていた。
 アキラはそれを取り上げ、洗濯機の中に放り込もうとした。が、ふと手を止めて、手の中の
セーラー服をしげしげと眺めた。
「コレって、もう使えないよね………弁償しないといけないなあ………」
だとしたら、アキラが貰ってかまわないワケである。
 アキラは、それをきれいにたたみ直して、大事そうに腕に抱えた。ヒカルの汗や涙――その他
諸々の体液が染みついたセーラー服である。洗うなんてもったいない。
「今夜はコレを抱いて寝て、進藤の夢を見よう。」

 アキラは着替えを脱衣籠の中に入れ、浴室に向かって「着替え置いておくよ」と、一言だけ
声を掛けるとそのまま出て行った。


(8)
 ヒカルは、今晩は居間で寝てもらおう。自分の部屋とは離れているし、それなら何とか
耐えられそうだ。
「レアもののアイテムも手に入ったし………」
アキラはセーラー服に頬ずりをした。


 アキラが居間で布団を延べているとき、ヒカルが部屋に入ってきた。
「あの……塔矢……ありがと…………」
振り向いて「いいんだよ」と、言いかけて、そのまま言葉が出なくなってしまった。
 濡れた髪……上気した頬……柔らかい石鹸の香……少し大きめのパジャマからちょこんと
覗く指先……ヒカルは、小首を傾げて愛らしい瞳で、アキラを見つめている。
 ちょっと待て!コンボ!コンボ!連続コンボ!自分のライフゲージ(この場合は理性か?)は
もう一ポイントぐらいしか残っていない。
 「塔矢?」
ヒカルがアキラの顔を覗き込んだ。可愛い顔が目の前に………!ああ………もう、ダメだ。
最後のライフポイントが消えてしまった…………………………。

 アキラはヒカルを抱き寄せて、そのまま布団に引き倒した。



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