トーヤアキラの一日 50
(50)
戻ってきたヒカルは、コートとバッグを拾い上げて身につけながらアキラを見ずに言う。
「やっべー。もうこんな時間だったんだな。早く帰って来いって怒られちゃったよ。
明日は学校にも行かなくちゃいけないし、オレ帰るわ」
「・・・そうだね。駅まで送るよ」
「大丈夫だよ、一人で」
「きっと道が分からないよ。来る時はけっこう裏道を通って来たし、その方が早いから
送るよ」
「そうか?悪いな、塔矢」
隣家の横にある細い脇道を抜けて、駅に向かって二人は歩いていたが、どこかぎこちなく、
そこはかとなく緊張感が漂っていた。
肌を触れ合った事による気恥ずかしさもあったが、ヒカルがアキラのPCを意識した事が
大きな原因である事を二人とも十分に分かっていた。
アキラは、少しでもヒカルを手に入れた気持ちになっていた自分に腹立ちを覚えていた。
───そう、キミには大きな秘密がある。それをまだボクに明かしてくれていない。
視界の中に入るヒカルを横目で見ながら、アキラは出来ることならここでヒカルを問い
詰めたかった。
───キミとsaiはどういう関係なのだ?saiはキミの何なのだ?
今のアキラにとって、saiが誰であるかよりも、ヒカルとsaiがどんな関係にあるのか
という事のほうが何倍も気になるのが本音だった。
出会った頃のヒカルの打つ碁がsaiであると感じていたが、最近は現在のヒカルが彼の
全てだと思うようになっていた。そしてアキラにとって、今のヒカルが何よりも大事な
存在であるために、saiの事には蓋をして、いつか話してくれると信じながら心の奥底に
閉じ込めていたのである。
それが思わぬ形で蓋が開いてしまい、新たな疑念が湧いてくる。
───キミにとってsaiはそれほど大事な存在なのか?saiと何を共有しているのだ?
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