誘惑 第三部 50


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「…ん……あ、……あぁ…」
これ以上ヒカルを傷つけないようにと自分自身を制御しているアキラを感じて、ヒカルの目から涙
が零れ落ちる。優しい唇がその涙を受け止める。
ああ、とヒカルは心の中で言葉にならない言葉を紡ぐ。ああ、塔矢、と彼の名を呼びながら、意識
の全てが真っ白に消えてしまいそうな充足感と幸福感に全身が満たされ、残された最後の力で
アキラを抱きしめる。それに応えるように、ヒカルを抱く腕の力がきゅっと強くなる。
「んんっ…!」
「んっ、しん、どうっ…!」
「…ぅや…っ…」
抱きしめる強い腕の力と、断続的に打ちつけられるアキラを感じて、ヒカルは断末魔のように身体
を震わせ、しがみついていた全てを手放した。

そしてもう抱きつく力さえ残されていないヒカルの身体を、アキラは静かにそっと横たえた。
耳元で声にならない声で囁く。
「好きだよ、進藤…」
その声が届いたのか、ヒカルは目を閉じたまま微かに微笑む。
乱れた髪を優しく梳きながら、目元に口付け、やっと聞き取れるくらいの微かな声でそうっと囁いた。
「……愛してる…」
ほとんど意識を失いかけていたヒカルに、その言葉は最初はただの音のカケラとしてしか届かなかっ
たけれど、それがとても大事なもののように思えて、ヒカルは薄れていく意識の中で必死にその言葉
を捕まえようとした。

―今、なんて、言った…?なんて?………

「…愛してる、ヒカル、」
もう一度、落とされた言葉を、ヒカルはやっと掴まえる。けれどその時にはもう遅すぎて、ヒカルはそ
の言葉を必死に追いながら、眠りに落ちて言った。

………ダメだ…眠っちゃ、ダメ………だって…オレだって……オレだって、言いたい………
……アイシテル、って……愛してる、アキラ、…って………言うから…………だから……………



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