Shangri-La第2章 50 - 52
(50)
アキラは手早く仕度を済ませて、部屋の電気を消すと
ヒカルのいる布団に端から潜り込みながら、
大の字で眠るヒカルを押しやり、自分の場所を作ると
ヒカルにしがみつくようにして、アキラはそっと目を閉じた。
色々と思うところはあるが、それでも、
明朝、目が覚めた時にヒカルがここにいるなら、
それで十分なような気もする。
これからのことは、明日起きたら二人で少し考えよう。
まだ眠るには早すぎて、眠れないまま色々なことを考えていたが
ずっと二人で会えずに居た日々と、隣にヒカルがいる今とでは
明らかに考え事の方向性が違うことに―これまで頭の中を巡った
苦しい、つらい思考など、一つも浮かんではこないということに―
アキラ自身も気付いてはいなかった。
(51)
寝返りを打とうとしたが、妙に狭くて、ふっと目が覚めた。
薄目を開けても周囲は真っ暗だ。
(―――ああ、塔矢か…)
二人でただ並んで横たわっているだけというのが、不思議だった。
アキラの首の下から腕を通して、頭をかき寄せると
髪になじんだシャンプーの匂いがふわりと鼻先を掠めた。
(あー、いー匂い…温ったけー………)
もう一度、アキラを抱き寄せるようにして
ヒカルは気持ち良く目を閉じた。
(52)
考え事をしながら眠りについたアキラが目を覚ますと
すこし窮屈で、すこし重たくて、すごく温かで――
そして眠りについた時とは違い、自分に廻されたヒカルの腕は
無意識なのか、それとも一度目を覚ましてのことか分からないが、
いずれにしても、その全てが嬉しい事には変わらない。
それにしても、額の一点が、妙に涼しい。
確かめようにも、しっかりとヒカルに捕らえられていて、難しい。
少しだけアキラが身をよじると、ヒカルの手にちょっと力が篭る。
ヒカルから離れないように、そして起こさないように
慎重に慎重に身体の向きを変えてやっと、
アキラは冷たい辺りに手を伸ばすことが出来た。
額の一点が生温く濡れ、前髪も局地的に湿っぽい。
(これって、もしかして……、よだれ?)
咄嗟にアキラは首だけでヒカルを振り返ったが、暗いうえに
角度が悪かったため、ヒカルの姿を目で確認することは出来なかった。
しかし何をしても、何があっても起きそうにない
今のヒカルなら、涎の一つも垂らしながら眠っていたとて
そうおかしいことではない。アキラは苦笑いを浮かべた。
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