| Shangri-La 51
 
 (51)
「塔矢、塔矢ー、と、う、やっ、」
 ヒカルがいくら呼んでも、アキラは考え事を止めない。
 「とぉやぁ…」
 思い切ってアキラの頬をつねると、ようやくアキラがこちらに意識を向けた。
 「あ、ごめん、なに?」
 「オレ腹減ってきたぁ…メシどうする?」
 「お腹、空いたの…?」
 昨日は食べさせるだけであんなに手がかかったのに、何なんだ???
 アキラは思わずまじまじとヒカルを見てしまった。
 「うん。当たり前じゃん。オマエ腹減ってないの?
 ホント、胃袋小っちぇーよなぁ…」
 「なべ焼きうどんでよければ、買ってきてあるけど…、食べる?」
 ヒカルは嬉しそうに頷いて、もう一度アキラを抱き直すと
 じゃぁもう少し寝たら食べようよ、と布団をかけ直した。
 ふわり、と記憶のある匂いが鼻先を掠める。
 「この布団、昨日は気づかなかったけど、進藤の匂いがするね」
 「そう?」
 「うん、ボクこの匂い、大好きだよ…」
 
 ヒカルの体温と香水の残り香が、アキラを心地よく眠りへと誘う。
 ずっとこうしていられれば、いいのに…
 胸の中に不安を抱えたまま、ヒカルの腕の中で
 アキラはひととき幸せな眠りに落ちた。
 
 
 終
 
 
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