誘惑 第三部 51
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「んじゃあ、今日は、塔矢門下の寂しい一人もん同士って事でー、かんぱーい!」
大仰にジョッキを差し出した芦原に付き合って軽くグラスを合わせながら、緒方が呆れ声で言った。
「なんだ、知らないのか、芦原。」
なにが?ときょとんとしている芦原を眺めながら、
「こいつは外れもんだ。ちゃっかり元の鞘に納まってるんだからな。」
そう言って、アキラを見てニヤニヤ笑う。
「なんで、知ってるんですか、緒方さん…」
微妙にうろたえ加減でアキラが応えた。
「なんで、だって?見りゃわかるさ。最近のキミを見てれば。」
言われて、アキラはそっぽを向いたが、その頬が微かに赤くなったのに、芦原は気付いた。
羨ましい。
「ちぇー、なーんだ、そうなのか。
なんだよ、だったらさっさとそう言えよ。オレだって心配してたんだからさあ。」
そういってひとしきりぼやいてから、芦原は笑って自分のジョッキをアキラのグラスにぶつけた。
「でも、よかったな。仲直りできて。うん。オレも嬉しいよ。」
「う、うん。ありがとう、芦原さん。」
照れたように言うアキラを見て、芦原は天井を見上げて溜息をついた。
「あーあ、羨ましいなあ〜。オレにもちょっとは幸せを分けてくれよ〜。
あ、でも、まだ緒方さんって仲間がいるか。ね?
それとも、もしかして緒方さんも裏切り者なんですかぁ?」
「オレか?どうせオレは振られたまんまさ。」
アキラがちらっと緒方を見て、それから何食わぬ顔でグラスを口元に運んだ。
その様子を目ざとく見つけて、芦原が訝しげに首を捻った。
「おまえ、もしかして、知ってるのか、緒方さんの事。」
「いえ、別に、ボクは…」
「ずるいぞ、緒方さんも、アキラも、オレだけ仲間外れにして。教えろよ、おい。」
「本当の話を聞きたいか?芦原。」
「聞きたいですよ。」
「実はな、こいつなんだ。オレを振ったとんでもない奴っていうのは。」
言いながら、緒方はアキラを目で指し示した。
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