Linkage 51 - 52
(51)
アキラが戻ってくる足音を聞きつけ、説明書を引き出しにしまうと、PCの電源を入れた。
「緒方さん、これからパソコンで何かするんですか?」
部屋に戻ってきたアキラは、PCの起動音に気付くと、不思議そうに緒方に尋ねた。
「アキラ君が寝付いたらな。オレはもう少し遅くまで起きているつもりだし、棋譜でも見ようかと……。
まあ、今夜はアキラ君の様子を見ていた方がいいだろうから、寝るつもりもないんだが……。
明日は特に用もないんでね」
そう言って緒方は立ち上がると、アキラの背中を軽く押して寝室へ向かわせる。
ベッドサイドのテーブル上にあるライトをつけ、アキラをベッドに座らせると、緒方もその横に腰掛けた。
「夜、ひとりでベッドに横になれば嫌でも色々考えるさ。自分の碁について悩んだり、後悔したり……
大抵考えない方がいいことばかりなのに、どうしても止められなくなるんだよな……」
溜息をつきながら、半ば自分に言い聞かせるようにそう呟くと、アキラの頭を優しく撫でてやった。
アキラはそんな緒方をじっと見つめている。
「薬を持ってくるから、ちょっと待っててくれ」
緒方は立ち上がると、寝室を後にする。
アキラは緒方が出ていった方向に視線を固定したまま、じっと動かなかった。
(52)
緒方はトレイを手に戻ってきた。
トレイには水らしき液体の入ったグラスと小瓶とスプーンが載っている。
緒方はトレイをサイドテーブルの上に置くと、小瓶を開け、スプーンを手にした。
「今回は初めてだし、オレがいつも服用している量の半分にしておくからな。少ない分にはそう問題もないと
思うんだが、多いと恐いんでね」
そう言って、慣れた手つきで小瓶の中の液体をスプーンで計り取ると、グラスに入れて掻き混ぜた。
アキラはその様子を凝視している。
「言っておくが……美味くはないぞ。原液のままじゃなくて、こうやって水に溶かして飲んだ方がいいだろうな。
それでもかなり変わった味であることに変わりはないが……」
緒方は苦笑すると、神妙な面持ちで頷くアキラにグラスを手渡した。
アキラは恐る恐るグラスに口を付けると、目を閉じて一気に中身を飲み干す。
「…………」
あまりに変わった味に声も出ない様子のアキラを見て、緒方は思わず笑い出した。
「オレも最初はそんな感じさ。オレの場合だが、10分かそこらで効いてくる。早めに横になった方がいいぞ」
「……こんな味の飲み物が、世の中にあるんでだなぁ……」
アキラもなんとかそう言うと、肩を震わせて笑いながらベッドに潜り込む。
緒方は仰向けになったアキラの前髪を掻き上げ、額に手を当てると穏やかな口調でアキラに語りかけた。
「うまく眠れるといいな。おやすみ、アキラ君」
「……おやすみなさい、緒方さん……」
アキラは緒方を見つめると、笑顔で小さく頷き、ゆっくり瞳を閉じる。
緒方はサイドテーブル上のライトを消すと、アキラの邪魔にならないよう、少し離れたコンクリートの
壁に凭れながらアキラの様子を見つめ続けた。
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