白と黒の宴4 51 - 52
(51)
レストランを出る時社がそれとなくアキラに声をかける。
「あれで進藤、オレとお前が仲良しなの気にしとるで。大丈夫や。」
「…社…」
明るい表情でそう言ってくれる社には感謝するが、どうしても伝えなければいけない事があった。
「…ボクはキミを利用したつもりはない。…だけど…」
「別にエエよ、それで。」
社は笑む。
「オレも苦しいけど、お前も苦しんどる。それがよオわかったから…。」
アキラは言葉が選べなかった。「ごめんなさい」とも「ありがとう」とも違う気がした。
「で、とにかく、それは置いといて、」
社は漫才師がよくやるように透明な箱を両手で挟んで脇に置くジェスチャーをする。
「何はともあれとにかく打倒、韓国や。騒ぎを大きくしたのはあの派手な白い兄ちゃんやからな。
相手の団長さんは何や気の小さそうな人やったで、白い兄ちゃんに注意をようせんのかもしれん。
副将の奴も三将の奴もやたら目付きが悪い。国際交流の意識が低い。オレらが一泡吹かせたろやないか。」
と一気にまくしたてた。アキラはきょとんと社を見つめていたが、力が抜けたように笑んだ。
「ああ。絶対、負けない。」
その直後、会場で大将がヒカルだと知った韓国側でちょっとした騒ぎになった。
アキラと戦う気でいた高永夏がヒカルに詰め寄ったのだ。
「普通じゃないよ、お前。お前、秀策の何なんだよ。」
それに気押される事無く高永夏を静かに睨み返し、ヒカルは答えかけた。
「…だって、オレが、オレが碁を打つのは―」
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ヒカルのその言葉を聞いた瞬間、アキラにはその先が聞こえた気がした。
早朝の空の遠くを見つめていたヒカルの姿そのものが答えだった。
ヒカルが秀策にこだわる本当の理由をはっきり知る事をアキラは望みながら怖れていた。
だが今は違う。saiを追うヒカルに自分は惹かれた。
大会の後にどんな変化があろうと、自分はヒカルを追うだけなのだ。
ようやくその覚悟が出来た。
対局準備へのブザーが鳴った。やけにその音はアキラの耳に大きく響いた。
新たな戦いへの幕開けのようだった。
覚悟は出来たはずだった。自分を信じるしかない。
社が心配そうにこちらの顔を覗き込む。
その目から逃れるようにアキラは自分の対局席に向かった。
戦い続けなければ、答えは出ないのだから。 (終わり)
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