平安幻想異聞録-異聞- 51 - 52


(51)
「ヒカル!?」
異形のモノに絡め捕られるヒカルの姿に、佐為は状況が飲み込めない。
「佐為っ!! 太刀!! オレの太刀取って!!」
ヒカルは絡め捕られたままの腕で、部屋の片隅に立て掛けてある
自分の太刀を指さした。
佐為は大慌てでそこに駆け寄り、太刀を手に取ったが、それを受け取ろうと
延ばしたヒカルの手を、無数の細い蔓がのびて、巻き付き、それを許さない。
太刀を渡そうとヒカルに近づいた佐為の足にさえ、それは絡みついて
二人の接触をはばんだ。
複数の蔦の形をしたものに足を取られる異様な感触に、佐為も肌を粟立てる。
「佐為っ」
ヒカルが必死で、手を伸ばす。だが、このままではいかに手を伸ばしても、
太刀はヒカルに届かない。
「くっ……!」
佐為は持ち慣れない刀の柄をつかんだ。
すばやい動きで手になじまない重さの刃を鞘から引き抜き、その白刃を、
足に絡む蔓の形をしたものに振り下ろす。
刃が、その異形に食い込む感触――だが、異形はその弾力で衝撃を吸収し、
太刀を受けて一旦は刃が食い込んだ場所も、佐為が力を抜けば、
その刃をいとも簡単に押し戻してふっくりと膨らみ、もとの形状にもどってしまう。
ヒカルにまつろいつく異形のものが、何かを見つけて、悦びに身を震わせた。
ぱくぱくと開閉するその先端の口らしきものから、ずるずると涎の
ようなものが流れ出した。その白泥した粘液でヒカルのふくらはぎを汚しながら、
上へと這い登ると、くるりと太ももを一巻きし、股の間に体をねじ込み、
その先端の口をヒカルの後ろの門へとよせた。
「…ひゃっ…!」


(52)
思わぬところへさまよいこんだ、異形のモノの、冷たくむっちりとした
感触の薄気味悪さに、ヒカルが首をすくめた。
「ヒカル!」
佐為は、自分の足首に巻き付くそれが、簡単に断ち切れない事を見て取ると、
その源を冷静に見極め、今度は、床板の間からはみ出す蔦の形のものの一番の大元、
太く蠕動するその茎にあたる部分に刀を振り下ろした。
刃がずぶりとその肉に埋まる。
佐為は渾身の力をこめて、その異形の肉を横になぎ払った。
ビシャリと何かが潰れる音がする。
部屋が異様な臭気に満ちる。
肉片の様なものを飛び散らしながら、茎が半分にちぎれた。
ちぎれて飛んだ禍々しい断面をした肉片は、まるでバラバラにされた
ミミズのように1片1片がのたくり、跳ねる。
そして、何かに操られているかのように、自らの本体である
太い茎状のモノの方へ集まっていく。
それを見て佐為が再び太刀を振るおうとするのを、蔦の一本がムチのように
しなって打ち、その手から太刀を叩き落とした。佐為は慌ててそれを
拾うおうとしたが、太刀は、瞬く間に他の細い蔓に巻き取られ部屋の隅へと
持ち去られる。
その佐為の見る前で、大茎は、その傷口から、ブクブクと泡を発し、
みるみるうちに元通りの姿になってしまった。
元通り――いや、その表面は醜く節くれだち、さらに忌まわしさを増してはいないか。
その茎より延びて、ヒカルの体に巻き付くそれは、先端の口から
タラタラと糸を引く淫液を滴らせながら、その口でヒカルの皮膚を吸い、
舐め、貪るように身をくねらす。



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