交際 51 - 52


(51)
 悄然と肩を落として、玄関を出て行くヒカルを見送る。ヒカルは何度も後ろを振り向き、
溜息を吐きながら帰路に着く。その華奢な背中が見えなくなるまで、アキラはそこに立っていた。




 ヒカルが自宅へ戻った後、社と二人きりになった。お互い話すことなど何もない。冷たい
空気が二人の間に流れていた。
 ヒカルをムリに返したのは自分だ。アキラと社の間に流れる不穏な気配を感じ取って、
彼は帰らずにここからホテルに行くと言い出した。ヒカルは北斗杯のための準備…………
大会のためのスーツも、着替えも、必要なものは何一つ持ってきてはいなかった。
「やだ………ここから行く…!」
ガンコに言い張るヒカルを宥め、ときには少し叱るように言い聞かせた。
「だって、キミ北斗杯の用意してきてないんだろう?これだけ大きな大会で、海外からも取材が来るし、
 スポンサーやその関係者の方も大勢みえるんだ。Tシャツにジーンズなんて、失礼だよ…………」
「でも………」
「ボクは、キミが礼儀知らずだって、陰口叩かれるのはイヤだ……」
ヒカルは、シュンと項垂れた。
「社とのことは心配いらない………ケンカなんかしないよ………」
自信はないが、こう言うしかなかった。
「ゴメン…ゴメンな………オレ………」
ポロポロと大粒の涙が滑らかな頬を伝う。ヒカルは、アキラにしがみついてシクシクと泣き始めた。


(52)
 居間に行くと、部屋の隅に布団が綺麗に積み上げてあった。社が言っていた“汚れたシーツ”は
その前に畳んでおいてあった。
 アキラは腹立たしげにそれをとると、そこにあったゴミ箱に突っ込んだ。そこに、全部
はいるわけもなく、だらりと外に布きれが垂れ下がっている。
 ヒカルの肌がどれほど滑らかでいい匂いがするか、愛らしい唇から発せられる喘ぎ声が
どれほど甘いか………それを知るのは、自分一人ではなくなってしまった。
 社がどんな風にヒカルをそのたくましい腕に抱いたのかと考えただけで、部屋中を破壊
したいような衝動に駆られる。
 その凶暴な情動が吹き荒れるアキラの脳裏に、ヒカルの泣き顔が浮かんだ。まるで水を掛けられた
ように、忽ち炎は消えてしまった。
 さっき、彼は自分の胸に顔を埋めて泣いていた。だが、アキラはその背中を抱きしめてやることが
出来なかった。いや、抱こうとしたのだ。優しく髪を梳いて、「怒ってないよ」と言いたかった。
でも……………
 結局、自分は、彼のことを許していないのだ――――

 深い溜息を吐いて、部屋を出ようと立ち上がった。ふと、後ろに気配を感じて振り返る。
社が立っていた。



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