とびら 第五章 51 - 55
(51)
ヒカルの服のなかは熱がこもっており、とても暖かかった。
隙間から手をのばし、ヒカルの首筋に触れる。
指をあごの下に沈めると、脈を感じることができた。とても速い。
(ボクは今、進藤の中にいる)
アキラは自分の身体全身がまるで性器になったような錯覚にとらわれた。
その思考は下半身に直結した。
「塔矢?」
不穏なものを感じ取ったのだろう、ヒカルがみじろぎした。
アキラは勢いよく服から顔を出すと、そのままジャージのすぼんに手をかけた。
「何する気だよっ」
「こうする気だ」
ずぼんを下着と一緒に引きずりおろし、自分の膝でヒカルの足を押さえつけた。
「緒方先生がいるだろ!」
「酔いつぶれてるよ。そんな大声を出すとかえって起きてしまうよ?」
ヒカルが怯んだすきに、自分もパジャマの下を膝までおろした。
「おいっ、冗談はよせよっ」
「ボクが冗談でこんなことをすると思ってるの? もう黙っててくれないか」
ヒカルの足を両手で抱えあげ、自分のペニスで軽くヒカルのそこをつついた。
そして狙いを定めると、そのまま何の前戯もほどこすことなく、一気に挿入した。
「やっぁ! いたっ……いたいっ」
苦痛を訴えられたが、アキラは早く自身をヒカルのなかに入れてしまいたかったので、
無視して突き進めた。
すでに和谷と情事をしていたといっても、そこは侵入を阻もうとアキラを押し返してくる。
だがその動きは、アキラをさらに昂ぶらせることになってしまった。
ヒカルが苦しげに白い喉を上下させ、涙をこぼしている。
頭のどこかですまない、と思いつつもアキラは腰を強くうちつけた。
ゴムという薄い膜に隔てられることのない情交は、アキラに得も言われぬ快楽を与える。
微妙なうごめきとともに、ヒカルの内部はペニスを締めつけてくる。
その動きはヒカルの意思とは関係ない。だがそれは誘っているかのようだった。
アキラはいつもよりも早く、ヒカルのなかにすべてを放っていた。
(52)
ぐったりとした様子でヒカルはアキラの下に身体を横たわらせている。
アキラは一回とりあえず出したので、少し冷静さを取り戻した。
そして舌打ちしたい気分になった。
(和谷に抱かれたとき、今度進藤を抱くときは優しくしようと決心したのに……)
まったく逆のことをしてしまった。
これでは初めてヒカルを抱いたときと同じではないか。
アキラは自身を引き抜いた。とろりと体液も一緒に流れ出た。ほんの少し血の匂いがした。
「すまなかった」
そう言うと、アキラは未だ萎えたままのヒカルのペニスをくわえこんだ。
すぐにヒカルのそれはアキラの舌に応えるようにふるえた。
ヒカルの弱いところは知っている。そこを唾液をからめながら、つつくように舐め上げる。
「ん……ぁぁ……」
薄皮のくびれたところだけではなく、先端の丸いところも舌で押してやる。
もう完全にヒカルのペニスはアキラの口腔内で勃起していた。
ヒカルの口からは先刻とは違って喘ぎ声が漏れている。
いったんアキラは口を離し、ヒカルにささやいた。
「もう一度、抱いてもいい?」
拒否されるかと思ったが、ただヒカルはこくこくとうなずいた。
先ほど犯されるようにして抱かれたというのに、ヒカルは素直にアキラを求めていた。
少しの無理をしても、ヒカルの身体は抱かれることに慣れているのだ。
それに対する嫌悪感はなかったが、一抹の寂しさを感じてしまった。
行為を中断させているアキラに焦れたのか、ヒカルが身体を起こしてきた。
そしてすっぽりとアキラの屹立したそれを口に含んだ。
「うっ……」
うめき声を上げ、アキラは唇をかんだ。ヒカルの口淫はいつも絶妙だ。
自分は、ヒカルが与えてくれる快感と同じくらいのものを与えられているかと考えたこと
が何度もある。
アキラはそんな不安を取り払うように、ヒカルの腕を引っ張った。
あらがうことなくヒカルは引き寄せられた。
吸い付くような濡れた感触を頬に感じた。柔らかなヒカルの唇。
意識が薄れそうになる。
視界の隅に緒方の背中が見えた。アキラは布団に押し倒されていた。
(53)
ヒカルはアキラの膝にからまっているずぼんを乱雑にはぎとり、のしかかってくる。
自分を抱くつもりなのか、とアキラは動揺した。
確かにさきほど、ヒカルになら抱かれてもいいと言った。
だが言葉ほどの覚悟がまだできていなかった。
薄くひらかれた唇が、潤んだ瞳が、間近にある。
だがすぐにそれは離れた。
ヒカルは頭の向きを反対にして、アキラの顔にまたがったのだ。
再びアキラのものがヒカルの口の中に収められる。
熱い口腔内に包まれ、自分のものがさらに張りつめてくる。
ぼうっとしそうになるのを叱咤し、ヒカルの腰を持ち上げ、その下にもぐりこんだ。
ヒカルのそれを指先で刺激を与えたり、ときおり口にいれて吸ったりする。
「ふっ、んふっ……」
喘ぎ声が直接アキラのペニスに響く。
アキラの手のうちにあるそれは、先端からとめどなく蜜をあふれさせていた。
自分も同じように出ているだろう。だがヒカルがそれらを全て舐めとっている。
ヒカルが肩で大きく息をしはじめた。その腰を淫らに揺らめかしている。
指先をさきほど自分が無理やりこじ開けたところに滑らせた。
ヒカルの後孔は赤く色づき、ぽってりと膨らんでいる。
そしてアキラの舌の動きと連動するように、収縮を繰り返していた。
こんなにじっくり見たことがなかったのでアキラは感動を覚えた。
(ボクのがいつもここに入っているんだ。こんな狭いところを押し広げて……)
指の腹で軽くこすってみたり、揉んでみたりしてみる。
ヒカルはアキラのをしゃぶるのに夢中になっているためか気付かないようだ。
それならばと、指を一本めりこませた。中はアキラの残したものでぬるりとしていた。
アキラは慣れ親しんだ感触に思わず目を閉じた。
自分はここをよく知っている。
ヒカルのなかのしこりを迷うことなく、かすめるようにしてひっかいてやった。
「ひゃぁっん」
びくりと腰の動きがとまる。だがアキラが口のなかのそれをさらに愛撫すると、すぐに
ヒカルはまた自分への奉仕をつづけた。
舐めあう音が次第に大きくなっていった。
(54)
ほんの少し緒方が気になった。だが相変わらず緒方は眠ったままだ。
布団がゆっくりと上下している。
別に起きていてもかまわない、とアキラは思った。
「あ……ふぇ、うぅ……っ」
アキラが指を増やして抜き差しをはじめると、ヒカルはもうこらえきれないと言うように
かすかにすすり泣きはじめた。
もういいだろうと見切りをつけ、アキラはヒカルの下から身体を抜いた。
ヒカルは膝をついたままの体勢だった。だが仰向けにさせるつもりはなかった。
腰をしっかり押さえつけて、今度は用心しながら自身をうめこませていった。
「っ! 苦しっ……とうや、苦しい……っ」
アキラにとって本日二度目だが、ほぐしたと言ってもヒカルのそこはやはり狭かった。
しかし肉壁はとても柔らかく、自分を絞りこむように包み込んでくる。
「はっ、はぁぁ、あっあ……!」
ヒカルの声に艶めいたものが交じりはじめた。
最後までペニスをおさめると、アキラは動きを止めて息を整えた。
しばらくヒカルのなかを存分に堪能したかった。
だがヒカルはシーツを引っ張り、焦れたように腰を押し付けてきた。
それでもなおアキラは動かなかった。するとヒカルが振り返った。
「は、早く……欲しい、から……とうや……」
目頭が熱くなった。
ずっとずっと自分は待っていた。こんなふうにヒカルに言ってもらうのを。
(初めてだ。ボクは初めて、棋譜の取引もなく、進藤を抱くことができるんだ)
アキラは足のはざまで揺れているヒカルのペニスを握った。
それを強くしごきながら、自分も打ち込みを開始する。
「ひっぁぁっ! くっやぁっ……」
抜いては下から突き上げる。だんだんそれに加速がつき激しさが増しても、ヒカルの身体
はこわばることなく、むしろ積極的に動きに合わせてくる。
なるべく声を出さないように努めていたアキラも、抑えきることができなくなってきた。
「進藤……ボクを感じて……好きだ、好きだ……」
馬鹿の一つ覚えのように、アキラは“好きだ”という言葉を何度も言った。
「んっ、あぁ……とうやぁっ」
情事に酔っている最中でさえ、ヒカルは“自分も”という言葉を返してはくれない。
嘘でもいいから、一度くらいヒカルに好きだと言ってもらいたかった。
(55)
アキラはヒカルの胸に手をまわすと、力いっぱいその身体を引き上げた。
貫いたまま、自分の上にのせる。
その突然の体位の変化にヒカルは戸惑うことなく、おのれの背中をアキラにあずけてきた。
髪を揺らして激しく動き喘ぐヒカルは、しどけなく色っぽい表情をしている。
「ううん……」
不意に緒方が寝返りをうった。その顔がこちらに向けられる。
「あっ……」
ヒカルが半ば正気に返ったような声をあげる。
だがアキラは容赦なくヒカルの身体を揺さぶった。
「や、とうや、オレ……あっ、はぁっ、んん……」
緒方を気にしつつも、ヒカルからはひっきりなしに声が漏れる。
「大丈夫だよ……緒方さん、眠りこけているから……」
ヒカルの髪に鼻を寄せ、匂いをかぐ。そのまま緒方を見て、アキラはぎくりとした。
その目が鋭く開かれていた。
目をこらしてアキラは緒方を凝視した。だが緒方のまぶたは閉じられていた。
気のせいだったのだろうか。
「な、あっ、ん……もう、やめ、見られたら……」
不安げにヒカルは言う。しかしその媚態は変わらない。その様にぞくぞくする。
「見られるのは嫌なんだ?」
膝の裏に手をかけ、足を大きく開かせた。結合している部分がよく見える。
ヒカルは顔を背けた。横顔が見える。
その表情には快感と羞恥心が入り混じっており、かえってなまめかしかった。
アキラはヒカルのペニスに指をからませ、もてあそんだ。
するとその身体が柔らかにしなった。アキラは耳朶に歯を立てた。
「本当に? それじゃあ、どうしてさっきよりも、ここが元気になっているんだ?」
「あ、やっ……ちがっ、ん、くはっ……」
アキラは興奮していた。それは見られているかもしれないということから来ていた。
そしてヒカルもそれは同じだろう。言葉で否定しても、身体が肯定している。
「ボクのを根元までくわえこんでいるのを、緒方さんに見られるのは恥ずかしい?」
「こ、のっ、変態……!」
「そうかもしれない。ただし、ボクがそうなるのは、きみ限定だ」
後はもう何も言わず、アキラはヒカルの身体を緒方に向けたまま注挿をつづけた。
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