とびら 第六章 51 - 55


(51)
「進藤? おい進藤!?」
和谷は慌ててヒカルの身体を揺すった。反応がない。
不安になって胸を見る。ゆっくり上下しているのを確認してとりあえず安堵した。
ヒカルはぼんやりと目を開いていた。だがその焦点はどこにもあっていない。
「大丈夫か? 進藤、俺がわかるか?」
自分の声が届いていない。軽くヒカルの頬を叩きながら、何度も呼びつづけた。
返事がない。
「塔矢、てめぇ……!」
アキラに対して、むかむかしたものが腹の底から湧いてきた。
「何で急にこいつ、こんなふうになっちまったんだよ!? まるで壊れちまったみてぇじゃ
ねえか! どうするんだよ!!」
「うん、途中から壊れた感じはしたね。いつもの彼らしくなかった。まあ、あれだけ精神的
にも肉体的にも追いつめられたらね。でも大丈夫だと思うよ」
アキラは悠長にヒカルの前髪をすいている。その横面を張り飛ばしてやりたくなった。
そんな衝動を押し殺して、和谷は絞りだすように言った。
「……何で言ってやんなかったんだよ。今までのままでいいって。こいつはそれを望んで」
「きみも言わなかったじゃないか」
和谷は口をつぐんだ。言わなかったのは、良くないからだ。
気休めに承諾することなど、もうしたくはなかった。それはきっとアキラも同じだろう。
「けど、進藤がそう言ったら、ボクはそれに従うつもりだ」
「へえ? 俺はてっきり、おまえは進藤をあきらめると思ったぜ? 俺が嫌いみたいだし?」
「あきらめる? そんなことするはずないだろう」
きみのことは嫌いだけれど、とアキラは付け足さなくてもいいことを付け足す。
和谷は火照ったヒカルの身体に用心深く触れた。やはりヒカルは微動だにしない。
意識を飛ばす直前、泣きそうな顔でヒカルは尋ねてきた。どんな目をしているか、と。
ヒカルの目はヒカルをそのまま表したかのように、和谷を惹きつけてやまない。
いつもあの瞳が和谷を誘っていた。そして誘われるまま、自分はここまで来たのだ。
今、無機質に自分を映すその目は、和谷の胸を痛くさせた。


(52)
布団はしわくちゃで、なにがあったか見れば一目瞭然の状態となっている。
この布団を片付ける人がいったいどう思うかを想像して、和谷はため息をつきたくなった。
それなのにアキラは身体の濡れているところを指先で拭い取り、布団にすりつけている。
視線を感じたのか、アキラが和谷を見てきた。
「和谷、乱れ箱を持ってきてくれないか」
「あ? ミダレバコ? 何だよ、それ」
アキラは漆塗りの浅い箱を指差した。なかには浴衣が入っている。
それが当然のことのように指図してくるアキラが気に食わない。
この情事の最中だって、アキラは何度も自分にいろいろと言ってきた。
それに素直に従ってしまったことが、今さらながらに悔やまれる。
「早く。進藤が風邪をひく」
そう言われてしまうと仕方がない。だが持ってくるとき、アキラがすればいいということに
思い至り、またこき使われたと和谷は苛立った。
「ありがとう」
お義理といった感じの礼を言ってアキラは受け取ると、浴衣を取り出した。
たたまれたそれを広げ、ヒカルに着せていく。
ひっくり返されたり、腕を持ち上げられたりしても、ヒカルは為されるままだった。
和谷は覆われていくヒカルの肌を眺めていた。手首や足、腰のあたりに指の痕がついている。
もちろん指だけではなく、口づけの痕も残っていた。
アキラはヒカルに着せ終わると今度は自分が着込んでいった。そして和谷に目を向けた。
「きみも着たらどうだ。そんな姿で出たらまずいだろう」
「どこかに行くのか?」
「風呂に入るんだ」
マイペースなその台詞に和谷は気が抜けそうになった。
だがたしかに自分の身体は汗ばんでいるし、誰のものかもわからない精液がいたるところに
付着しているので、洗い流したくなった。
和谷も浴衣に袖を通した。二人部屋なのに、なぜ四人分そろえてあるのかと疑問に思う。
余分に置いてあるのだろうが、和谷は意味深に考えてしまって一人赤くなった。
そんな和谷をアキラは怪訝そうに見ていた。


(53)
もうかなり夜も更けている。廊下は深閑としていた。
和谷がヒカルを背負い、アキラはその後ろについてきていた。
格好良く抱えることができればいいのだが、同じ年頃の少年を抱えるなど無理だ。
ヒカルの腕がだらりと自分の胸のあたりに垂れている。耳に届く呼吸はかすかだった。
ひどくその身体が重く感じられた。
浴場にたどりつくと、和谷はとりあえずヒカルを背中からおろした。
アキラは支えると、そのまま浴場内へと連れて行こうとする。
「おい塔矢。浴衣……」
「このまま入る」
非常識な言葉に和谷は呆然とする。浴衣を着たまま入るなどどうかしている。
そんな和谷に、アキラはにこりとした。
「脱がせるのがめんどうくさい」
嘘だ。アキラから良からぬものを感じる。
どうしてヒカルはこんな人間的に問題がある少年とつきあっていられるのだろう。
自分だったら絶対に嫌だ。
ヒカルはおぼつかない足取りなので、とにかくそれを支えるために和谷もつづいた。
中に入ると熱い湯気が全身を襲った。身体が冷え切っていたことに気付く。
それを売りにしていることだけはあって、さすがに浴場内はとても広かった。
そして浴槽の数も多い。ぱっと目にしただけでも四つある。その一つに露天風呂があった。
奥にはサウナらしきものも見えた。
アキラは迷わず露天風呂のほうに進む。ヒカルはやはりぼんやりとしたまま付いていく。
ひんやりとした春の夜の空気に、和谷は身をすくませた。
前方にもうもうと湯煙をあげている湯船がある。見ると黄土色をしていた。
「今日、会場のお客さんに金泉のことを聞いたけど、それってこれのことだよね。正確には
硫黄泉って言うみたいだけど」
アキラは横に立てられている板を読みながら独りごちた。
ゆっくりとヒカルを座らせると、アキラは脇においてある桶に手を伸ばした。
それで湯をすくい、浴衣の上から何度もかけた。
そしてアキラは湯船に入ると、ヒカルをそこにひきずりこんだ。


(54)
本当に浴衣を着たまま入るとは思ってもみなかった。
アキラはヒカルを仰向けにさせると、その膝を開いてあいだに割り込んだ。
それを見て和谷はさらにぎょっとした。
「塔矢、おまえ何をするつもりだ!?」
「ボクたちの残したものをきれいに出すんだよ」
返ってきた答えはまたしても良識から外れていた。
浴衣で入っただけでは飽き足らず、湯船を汚そうとしているのだ。本当に信じられない。
湯に色がついているので、水面から出ている部分以外は見えない。
だがアキラが何をしているかはおおよそ見当がついた。
「……ぁ……ぁぁ、やっ、あっ!」
人形のように黙っていたヒカルが急に声をあげた。
「進藤、そんなに動かないで。いま掻き出してるんだから……」
しかしアキラのそんな言葉など耳に入っていないようで、嫌がるように身をよじっている。
ヒカルの左足がくん、と水面から突き出された。
それが煌々とした灯りに照らされ、妙に白く輝いている。そのなまめかしさに目を奪われる。
浴衣がぴたりと肌にはりついている。だが胸元はゆるんでおり、乳首が片方だけ見えた。
アキラの目の色が情欲のそれに変わった。
その両膝を抱えると、いきなりヒカルに近付いた。途端に短い悲鳴が空気を裂いた。
小さな波が起こる。湯の中にいるのでヒカルの身体が浮いてくる。
アキラはそれを強引に沈める。気泡が無数にたった。
「あ、はぁ……あぁっ、ぅん……ふぅ……ゃっん!」
何かをつかもうとするかのように、ヒカルの手が宙をさまよう。
和谷はそれを握りしめた。だが握りかえしてはこない。
「……ひぁ、んっ……ァ、んん!」
その声はひどくかすれているのに、どうしてこんなにも自分たちを煽るのだろうか。
もう勃たないだろうと思っていたペニスが、性懲りもなく存在を主張しはじめていた。
和谷はヒカルの手を開かせると、欲望にはちきれそうになっているそれを握らせた。
そしてその手に自分の手をかぶせると、勢いよくしごきはじめた。
ヒカルの意志ではなかったが、ヒカルの手だというだけで和谷は官能を得ていた。


(55)
少年三人が、風呂場で淫らな行為にふけっている。
誰かが見たら仰天するだろうその光景だが、幸いにもその“誰か”はやって来なかった。
アキラはヒカルの首筋に顔をうずめると、突然その動きを止めた。
どうやら達したらしい。だが和谷のそれは勃起はしたが、射精にまでは至らなかった。
ヒカルのペニスがどういう状態かはわからなかったが、勃ってはいなかったように思える。
なぜならアキラが身を引くと、またすぐもとのように呆けたようになったからだ。
「ごめん、もう一度、出すね」
すまなさそうにアキラは言うが、もちろんヒカルは何も言わない。
今度は手早かったためか、ヒカルが乱れることはなかった。
アキラは未だに和谷のものが握られているヒカルの手を見た。
「きみもする?」
「いいよ! せっかくきれいにしたんだから」
「また掻きだせばいい」
アキラが大儀そうに上がってきた。めくれた隙間からアキラのペニスが見えた。
今まで和谷はヒカルのもの以外、他人の性器をじっくり見たことがなかった。
三人でしている最中、何度かそのペニスを見て、和谷は複雑な思いに駆られた。
アキラがその顔に似合わず、なかなか立派なものを持っていたからだ。
だがそのセックスには少し恐ろしさを感じた。やることが常軌を逸している気がした。
変な性癖の持ち主ではないのかと疑ってしまうほどだ。
「本当にいいよ俺は。そんなにしたいわけじゃねえから。ほっとけば、そのうち治まる」
これ以上すると、自分のものが使いものにならなくなるような気がした。
そんな恐怖を抱いてしまうほど、和谷はしたのだ。
だから和谷はこっそりアキラの精力の旺盛さに舌を巻いていた。
そこでふと、ヒカル自身に思いを馳せた。ヒカルはアキラと自分の二人を相手にした。
なのにいつもよりも貪り求めてきた。いちばん享楽に耽っていたのはヒカルだった。
「進藤を出そう。この湯は万病に効くとされているらしいけど、刺激が強いから湯あたりや
湯ただれも起こしやすいみたいだから、あまり浸かりすぎるのは身体に良くない」
二人でヒカルの身体を持ち上げた。そして次に連れて行ったのは洗い場だった。
ヒカルを横たえると、アキラは帯をほどいてその前を開いた。



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