誘惑 第三部 52
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緒方の台詞に、芦原も、アキラも目を丸くした。ことにアキラは、返す言葉がなかった。
いきなり、何を言い出すんだろう、芦原さんの前で、この人は。
だが緒方がニヤニヤしながらアキラを見ているのに気付いて、アキラは緒方の話にのる事にした。
「実は、そうなんです。」
にっと笑いながら、アキラが芦原に答えた。
「アーキラぁ、」
ふざけるのはよせよ、という風に、芦原がアキラを見る。
「緒方さんがおまえと付き合ってて、でもおまえが緒方さんをふったとでも言うのかよ?
ええ?それじゃ、喧嘩の原因になった浮気相手って言うのは緒方さんだって言うのか?
それならおまえの今の相手は誰なんだよ?」
「進藤ですよ。」
何食わぬ顔でアキラが答えた。
「進藤ォー?、おまえ、冗談とは言え、よくそんな名前、持ち出すな?
進藤が聞いたら怒るぞ!?」
「だって本当の事ですから。」
睨みつける芦原ににっこり笑いかけてアキラが続ける。
「本当ですよ。それにボクが進藤の事になるとタガが外れるのは芦原さんもご存知でしょ。」
「知ってるよ!!おまえが、昔っから進藤、進藤、ってあいつにはムキになってたのは!
でも、そうじゃなくって!今は女の話をしてるの!!ライバルじゃなくて、恋人!!誰だよ!?」
「だから進藤だって言ってるじゃないですか。
それに別にどうだっていい事でしょ。男だとか女だとか。ねぇ、緒方さん?」
「…そうだな。」
「緒方さん、あんた、いつから両刀になったんですか。え?」
「コイツの色香に惑わされてからかな。なあ、アキラくん?」
そう言いながらアキラの顎にかけた緒方の手を、アキラはパシッと軽く払った。
「馴れ馴れしく触んないで下さい。ボクに触っていいのは進藤だけなんですからね。」
「ずるいっ!汚いっ!二人して、オレをからかって…!
アキラ、おまえはいつからそんな人をからかって遊ぶようなヤツになったんだ!」
「ええー、別に、昔っからじゃないかなあ?」
「おまえっ、この間はオレが親切に相談に乗ってやって、しかも全部奢ってやったって言うのに、
その恩も忘れて…」
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