日記 52 - 54
(52)
アキラは、ヒカルの言葉を何度も反芻していた。ヒカルはまだ眠っている。もう、太陽は、
かなり高い位置に来ているが、まだ、目覚める気配はない。アキラはずいぶん前から、
目覚めていたが、昨夜と同じ裸のままでヒカルの隣で膝を抱えていた。ヒカルの肌のぬくもりを
感じていたかったからだ。
――――――オレも好き……塔矢のこと…大好き…誰よりも好き……
でも…それじゃダメかな…?それだけじゃダメなのかな…?
その意味をずっと考えていた。ヒカルの気持ちが痛いほど伝わってきて、自分の勝手さに
腹が立つ。
進藤が起きたら謝ろう――――――そう思っていた。
向こうの部屋で、電話のベルがなった。アキラは、軽く舌打ちして、ベッドを降りた。
電話はヒカルの母からで、お礼とお詫びを互いに言い合った。戻ってくると、ヒカルは、
もう起きていた。電話の音で目が覚めたのだろう。裸のまま、ベッドの端に腰をかけている。
その胸には、何かを抱いていた。
(53)
アキラが声をかけるより早く、ヒカルが胸に抱いていたものを差し出した。
「これは…?」
ヒカルの日記だ。表紙にリンドウの絵が描いてある。奇麗なノート。
「オレ…塔矢に秘密にしていることいっぱいある。でも、オレはそれを話せない……
……話したくない…だから、塔矢がどうしても知りたいなら…」
ヒカルは、ちょっと息をついた。
「…読んでいいよ。それ…それ読めば…全部じゃないけど…わかるから…」
そう言って、アキラの手に無理矢理それを押しつけた。
―――――進藤に試されている?
アキラはそう思った。だが、同時にそれを否定した。ヒカルはそんなことをしない。
本気でアキラを心配しているから、これが、ヒカルにとって精一杯の好意なのだ。
アキラは黙って、手の中のノートを見つめた。
リンドウ…本物はこれよりもっと美しい。ヒカルは本物のリンドウを見たことが
あるのだろうか?きっとないのだろう…描かれた花の美しさに目を奪われていたヒカル…
これは、ヒカルにとっての聖域をそのまま顕わしているのかもしれない。
アキラは、ヒカルにノートを返した。
(54)
アキラに日記を返されて、ヒカルはきょとんとアキラを見つめた。
「見ないの?」
アキラは黙って頷いた。
「見てもいいんだよ…だって…オレ…」
ヒカルが言い終わらないうちに、アキラがヒカルにキスをしてきた。
「ごめん…進藤…」
アキラに謝られて、ヒカルはびっくりした。謝るのは自分の方だと思っていた。
「ボクは…進藤のことを知りたい…どんな些細なことでもいいから…それは仕方がない…
どうしても止められない……でも、無理矢理聞きたい訳じゃないんだ…」
ヒカルの肩にアキラが顔を埋めて、呟いた。サラサラと零れるアキラの髪が、くすぐったい。
「昨日、キミが言ったこと…すごく意外だった…無邪気なキミの中にあんなキミが
いるなんて、ボクは知らなかった…少しずつでいいから…あんな風に自然に、
ボクの知らないキミを知りたい…」
アキラの告白に顔が赤らむ。ヒカルは、自分が恥ずかしくなった。
「オレ…勘違いしてた?」
アキラは首を振った。
「違うよ。ボクはいつだって、キミの全てを知りたくて仕方がないんだ。」
ホントはそのノートだって、見たいのにやせ我慢しているんだよ――――
アキラが笑って言った。
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