初めての体験 52 - 56
(52)
暫くして、森下は、ヒカルを一旦解放した。ヒカルは、起きあがり、苦しそうに体を折り曲げた。
涙を流して、咳き込んでいる。畳の上に涙と涎のシミが出来た。
げえげえ言っているヒカルを、森下は再び捕らえ俯せにした。
「せんせい…」
ヒカルが振り返って、涙に濡れた瞳で森下を不安そうに見つめた。森下は相変わらず、
無言である。その静かさがかえってヒカルを怯えさせた。いつもの森下とは別人のようだった。
ヒカルの不安を知ってか知らずか、森下は手荒くヒカルを扱った。ヒカルの腰を乱暴に
引き寄せ、後ろに指を突き立てた。
ズブリッ――――― !
という音がしたような気がした。「――ッ!」ヒカルは瞬間息を詰めた。背中を伝って、
痛みが駆け上がってきた。ヒカルは歯を食いしばって苦痛に耐えた。
森下の無骨な指が、ヒカルの内部をかき回している。一本ずつ指を増やされる度、
ヒカルは喘いだ。ズニュズニュと卑わいな音を立てて、指が後ろで抽出と挿入を繰り返した。
「あん…あ…いい…うん…」
いつしかヒカルは甘い吐息を漏らし始めた。ヒカルの嬌態は、森下をますます高ぶらせた。
森下の指の動きが、段々と激しくなっていった。
「アッ」
森下が突然、指を引き抜いた。そして、ヒカルの腰をがっちりと固定すると、
自分の物でヒカルを一息に貫いた。
(53)
「ア――――――――ッ!」
ヒカルが甲高い声を上げた。指で慣らされていたとはいえ、その乱暴なやり方にヒカルは
息が止まりそうになった。森下は激しくヒカルを突き上げ続ける。
「あ…や…せん…せ…やだぁ…」
「せんせ…やめ…て…いや…いやぁ…」
泣きながら「やめて」と懇願するヒカルの股間は、言葉とは裏腹に堅く張りつめていた。
森下の熱く堅い物が、ヒカルの弱いところを刺激していた。
「――――――――ッ!」
ヒカルは畳の上に欲望を解き放った。森下は、ぐったりとしたヒカルを激しく揺さぶって
いたが、暫くしてからヒカルの中に熱いものを吐き出した。
「塔矢…オレ、森下先生に怒られちゃった…」
ヒカルがしょんぼりと肩を落として言った。
「えっ?どうして?」
アキラは、驚いて訊ねた。
「森下先生…塔矢先生をライバル視しているからさぁ…塔矢と仲良くするなって…」
「そんな…じゃあ…もう会えないのか…?そんな理不尽なこと、進藤は受け入れるのか…!?」
アキラがヒカルの肩を乱暴に掴んで揺さぶった。目はきつく吊り上がっている。
ヒカルは、アキラの手に自分の手を重ねてにっこり笑った。
「…んなわけねーじゃん。オレ、先生にちゃんと『塔矢と仲良くしたい』って言っといた 。」
「そしたら、先生もわかってくれたし…」
ヒカルが「驚いた?」と、ペロッと舌を出して見せた。アキラはホッと胸をなで下ろして、
「もう…!びっくりさせるなよ…!」
と、ヒカルの額をコツンと小突いた。ヒカルは悪戯っぽく笑って、アキラに抱きついた。
実は、ヒカルがアキラに言ったことは、半分は本当のことだが、もう半分は事実とは少し違う。
ヒカルは、自分と関係したことを逆手に取って、森下に脅しをかけたのだ。そうして、アキラとの
逢瀬を勝ち取った。しかし、それをアキラにわざわざ告げる必要はない。
森下は最後の詰めが甘い…とヒカルは思った。行洋なら、きっとこうはいかない。
ヒカルは、アキラの腕の中で密かに笑った。
森下先生……さすが、オレの師匠。でも、塔矢先生にはちと劣るかな?
『忘れない内にメモしなくちゃ』とヒカルは頭の片隅で考えた。
<終>
(54)
緒方は、自分の隣で安らかな寝息を立てている少年を見て、溜息をついた。
『どうして、こんなことになってしまったのだろう…。』
実をいうと、昨夜のことは、何も覚えていない。記憶がなくなるほど飲んだのに、
できたのだろうかと言う疑問もあった。だが、現実に裸の自分の隣に、
裸の少年が眠っている。
『まさか…本当にオレは…こんな子供とやってしまったのか?』
逡巡しているうちに、少年が目を覚ましてしまった。
「緒方先生、おはよう。」
少年が大きく伸びをしながら、緒方に挨拶をした。
「お…おはよう…進藤…」
緒方は、ヒカルの顔をまともに見られなかった。話そうとしたが、顔が引きつる。
酒の上の過ちとはいえ、取り返しがつかない。
(55)
「し…進藤…昨日は…」
「先生──昨日は大変だったよ。」
緒方の質問に、ヒカルの声がかぶさる。
「先生、酔っぱらっちゃってさぁ。オレに頭からビールかけたんだよ。
覚えてないの?」
ヒカルの話はこうだ。昨夜、ヒカルは緒方のマンションを訪ねた。特に目的が
あったわけではない。ただ、暇だった。それだけだ。一局ぐらいは打ってもらえるかも
と思った。ヒカルを玄関に招き入れた時、緒方はもうすでにしたたかに
酔っていた。その時点で引き返そうとしたヒカルを無理矢理、部屋へ
連れ込んだ。緒方は、酌を要求し、ヒカルが返杯を断ると、頭からビールを
振り掛けて、大笑いした。あげく、泣いて抗議するヒカルをほったらかしにして、
そのまま眠ったのだという。
「先生の服を脱がして、ベッドに入れるの大変だった。先生もビールでびしょ濡れ
だったしさ。オレも勝手にシャワー借りちゃったよ。」
ヒカルの言葉は緒方にとって信じられないことだった。確かに昨日は酔っていた。
ヒカルが来たことも朧気ながら覚えている。あくまでも朧気だが…。
しかし、いくら何でも…それは嘘だろう。自分は分別のある大人だ。子供に絡み酒など
するわけがない。…とはいうものの、自分には前科があった。『saiと打たせろ』と
酔って絡みまくったことが…。床も掃除した後があったし、洗濯機の中にも、ビールに
濡れた服が放りこまれている。顔から血の気が引いていく。
ヒカルの言うことは事実かもしれない…。落ち込みそうだった。
頭が痛いのは、二日酔いのせいだけではないだろう。
(56)
ガウンを羽織っただけの姿で、洗濯機を回していると、ヒカルが寝室から
声を掛けた。
「先生──。なんか服貸してよ──。」
緒方はクローゼットをかき回して、何とかヒカルが着られそうなシャツと
チノパンを出した。
標準より小さいヒカルには、緒方の服は大きすぎた。仕方がないので、袖も裾も何重にも折り曲げた。服を着ているというより、服に着られているといった状態だ。
緒方はヒカルの全身を上から下までまじまじと見つめてしまった。少女が男物の服を
着ているように見える。ヒカルが首を傾げて、不思議そうに緒方を見つめ返した。
その姿があまりにも可愛くて、緒方の中によからぬ感情が湧き起こってきた。そんな情動に
緒方は自分自身で戸惑った。ますます自己嫌悪に陥りそうだ。
緒方の複雑な心情に気づいていないのか、ヒカルが無邪気に言った。
「先生、酒臭いよ。風呂入った方がいいんじゃない?」
「あ──。そうだな…。」
緒方は、溜息混じりに返事をして、前髪を掻き上げた。
「先生。オレが背中流してやろうか?」
「!!ば…馬鹿!」
「何だよ。ぼーっとしてっから、手伝ってやろうと思ったのに…。」
「結構だ。一人で入れる。」
チェッとヒカルはふくれっ面を作った。その顔を横目で見やりながら、
『これ以上煽るような真似をされては堪らない。さっさと家に帰そう。』
と、緒方は思った。 洗濯物を乾燥機に放り込んで、そのまま浴室へ入った。
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