クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 52 - 60
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云われてみると確かに、クチナハの動きは弱まっていた。
もはや明の内部を嬲ろうとする元気もないらしい。
苦しいのかピクッピクッと絶えず身をヒクつかせながら、
悶えるように不規則に長い身を蠢かせ続けている。
だが今までに比べれば格段に緩やかで、明を追いつめることを目的としないその動きが、
クチナハの淫液で疼く内壁を持て余す今の明にとっては
堪らなくもどかしいものに感じられた。
「・・・ふぁッ、・・・ゃぁあぁ・・・っ」
思わず喉から洩れた甘い声と共に、
もっと激しい動きをねだるように腰をくねらせてしまった己に驚いた。
――ボ、ボクは今何を。
そんな明を見た緒方の、御符を押さえつける指から怯むように力が抜けかかった。
「・・・逆効果か?止めたほうがいいか?」
「やっ、駄目ッ・・・!そのままにしてください!」
ぱっと緒方の指ごと、御符が入り口から離れないよう押さえつけた。
――こんな状況だと云うのに、快楽を求めるなどどうかしている。
たとえもどかしい感覚に苛まれようと、クチナハを弱らせ光が戻ってくるまでの
時間稼ぎが出来るなら、それに越したことはないではないか。
「・・・いいのか?そいつが苦しんでますます暴れたりはしていないか?」
「はい!御符のせいで弱っているようです」
「・・・なるほど。・・・とすると、今の声は・・・」
含みのある声で呟きながらチロリと見られて、明は頬を熱くした。
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――見抜かれている。
今己が上げた声は、苦痛のためではなく更なる快楽を求めてのものであったことを。
嫌だおぞましいと云いながら、己の体は確実にクチナハの責めを悦んでいることを。
だが、本当にクチナハのせいだけなのだろうか?
先刻己は緒方に裾を開かれその視線の下に晒されて、
クチナハに奥を突かれた衝撃のためだけではなくこんなはしたない姿を
他者に見られているという興奮と刺激を十二分に味わいながら、
到達したのではなかったか。
緒方の意図を知らずに膝を抱え上げられたその時、
光を想って涙を流しながらもその先に来るもの――クチナハと緒方によって
与えられるだろう未知の悦楽を、焦がれるほどに熱望してはいなかったか・・・
疼く後門の入り口から、内部に満ちたクチナハの淫液が溢れ出し
戒めの御符の隙間を伝って尻肉の間の小径へと流れた。
「あッ・・・」
それは膚の表面を伝っただけで疼きを生む、魔の粘液だ。
特に敏感な部分というわけでもないのに膚が粟立つような疼きを覚えて、
明は思わず緒方の手を押さえていた指を離し、
ゆっくりと腰へ向かって伝い落ちていくそれを掬い取ろうとした。
「ああ、いい。オレが拭こう」
明の手を後門へ導き自分で御符を押さえさせると、緒方は傍らにある料紙を取った。
「・・・・・・」
カサカサと音を立てて料紙が近づいてくる気配がして、明はほっと目を閉じた。
クチナハの液を綺麗に拭き取って貰えれば、
この淫らな疼きは少なくとも後門の中より外には広がらないで済む。
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だが、緒方は何を思ったか紙を当てる前に明の膚につぅっと指を滑らせ、
その淫液を掬い取った。
「お、緒方さん?」
「これは・・・ほう・・・なるほど」
明が見ると緒方は指に絡め取ったそれをヌチョヌチョと興味深げに弄んでいる。
「おまえがあまり善さそうにしているから、どんなものかと思ったんだが・・・
こんなのが中に入っているんじゃ、堪らんだろうな?」
にやりと笑いかけられて、明は顔から火が出るかと思った。
「ふ、ふざけていないで早く拭いてください・・・」
「はは、そうだな」
淫液を拭き取った後、緒方は別の料紙を当てて
明の腹や腿の上に飛び散った精液をも拭い取ってくれた。
今度こそほっと力を抜いた明だったが、
ふと見ると緒方は淫液がたっぷりと滲み込んだ先の料紙をじっと見ている。
嫌な予感がして後門の御符を押さえたまま起き上がろうとした明の肩を、
緒方が片手で床の上に押し戻した。
目が合った明にフッと笑ってみせ、そのままもう一方の手で淫液の滲みた料紙を
取った緒方に明は悲鳴を上げた。
「嫌です!緒方さん、やめっ・・・ヤァッ!」
「ふっ・・・一番感じる部分に当てなかっただけ、ありがたいと思えよ」
乱れた袷から覗く明の桜色の乳首の片方に淫液の滲みた料紙をきゅっと押し当てながら、
緒方は唇を歪めて笑った。
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「折角助けに来てやったのに、妖しに取り憑かれた当の本人は
気持ち良さそうに喘いでやがる。しかも一発犯してやろうにも中には妖しがいて、
入れたら喰い千切られかねんと来た。一晩中生殺しでおまえについていてやるんだぜ?
もう少し目と耳の保養をさせてもらったところで、罰は当たらんだろう」
云いながら緒方は、もう片方の乳首にも被さるように料紙を広げた。
ぬめる料紙の上から、狂いそうに疼き始めた二つの小さなしこりをやんわりと揉まれ
明は大きく身を仰け反らせた。
「はあっ、ゃっぁあああっ!」
「いい声だ」
喉の奥で笑いながら緒方は料紙の上から指の腹を当て、
くるくると円を描くように優しく刺激した。
「はぁ・・・ぁふ、フッ・・・ゥ・・・ぅうー・・・」
魔の淫液がもたらす疼きと共に両の乳首を緒方の指で、
後門内部をクチナハの長い身で刺激され続ける。
明は全身をわななかせながら目を閉じ、遣る瀬なく首を振った。
開いた赤い唇の端から、涎が零れ落ちる。
後門で御符を押さえていた手の片方が無意識に上方のモノに伸び、
もう片方の手の指が御符の上から入り口周辺を刺激するようにじわじわと蠢き始める。
そんな明の乱れた姿に、
緒方は式の小鳥に激しくつつかれ髪をぶちぶち抜かれるのもそっちのけで
見入っていた。
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「川に沿って行けば分かるって、云ってたな・・・」
童に云われたとおり夕暮れの山中を馬で分け入り、もうすっかり暗くなった頃――
前方に朧気な灯りが見えた。
いや、灯りではない。
近づいてみると、それは火のように赤く美しい、夢のような紅葉の群れだった。
光が馬から下りるとサラサラと清流の音がかそけく響く中、
赤い紅葉がひらりと一枚、遠い都からなずみ来た光を労うように舞い降りる。
それを手に取り、一瞬ここに来た目的も忘れて清らかな光景に見入った。
「・・・すげ・・・賀茂みてェに綺麗だ・・・」
水のように炎のように美しい想い人の幻が、夜の中に浮かんで光の胸を熱くした。
その時、
不意にガサッと枯葉を踏み分ける音がした。
「そこに居るのは誰や!」
びくりとして振り向くと、
そこには背の高い、白銀色の髪をした、水干姿の若い男が立っていた。
「あ・・・っオレ、オレは――」
美しい光景に見惚れて気が緩んでいた所を不意に見咎められて、光は焦った。
随分若いし、聖と云うより何だか普通の町人のような格好だが、
もしやこの男が件の聖なのだろうか?
白銀の髪の男は、切れ長の目で光を睨み据えながら厳しく続けた。
「この辺りは立ち入り禁止ゆうことになっとるんや!
この山を越えるより迂回したほうが次の国へ行くには早いから、
商人も官馬もここまでは登って来ォへん。アンタ、見たとこ都人みたいやけど
どないな目的でこんな山の中まで来てん。返答次第では、この場で――」
云いながら男の目に、ぎらぎらと人のものでないような光が宿り始めた。
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――なんだ、こいつ!
全身が総毛立って光は思わず後ろに飛び退き、刀の柄に手をかけた。
京の都で何度か、人を襲う野犬の類をやむなく斬ったことがある。
それらが恐ろしい声で咆哮しながら跳びかかってくる直前の目の光――
憎しみでもない、怒りでもない、ただ己の縄張りを侵し己を害そうとする敵への
本能的な殺意に似たものを、光は男の目の中に見た。
――これ、やめんかいっ!
突然、天から降ってくるような怒声が辺りに響いた。
「うぁっ」
「うぉっ」
光と男は同時に声を上げ身を竦ませた。
男は直前までの殺気もどこへやら、情けない顔で空を見上げきょろきょろとしている。
「お、お師匠様」
天から降ってくるような声は、幾分諭すような調子になって続けた。
――アカンで、儂の弟子になったら、もう短気起こさん云う約束やったろが。
こないな時間になってから危険を押して夜の山を登ってきたんや、何か訳あるんやろ。
話くらい聞いたろやないか、庵に来てもらい。
「は、はいっ!・・・おい、おまえ。そういうことや。
お師匠様の庵まで案内したるさかい、ついて来ーや」
男は少し憮然とした表情で光を振り返った。
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「あ、ああ。そりゃ助かるけど・・・」
急な展開とどこから響いてきたのか分からない不思議な声に面食らって、
光はどぎまぎしていた。
「助かるけど、なんや!ぜーたくゆうとると案内したらへんで!
これだから都の人間は勿体ぶっててやらしい云うんやー」
噛み付くように男が云った。
その様子が意外と子供っぽく見えて、顔立ちは大人びているが
もしかしたら己や明と同じくらいの年なのかもしれないと光は思った。
「いや、その・・・そのお師匠さんって、オレの探してる人なのかなと思って。
オレが会いに来たのは、吉川上人っていう・・・」
「しっ師匠は師匠やー!文句云わんとさっさとついて来ーや!置いてくで!」
言い捨てると、少し大人びて見える白銀の髪の少年はくるりと背を向け、
ガサガサと枯葉を踏み分けて歩き出した。
「あっ、待っ・・・」
光が声をかけても、少年が足を止める気配はない。
少し不安は残るが、今夜はもうこの少年について行くしかなさそうだった。
――だがそれならその前に一言、
「な、なあちょっと待ってくれよ!おいっ!」
「・・・なーんや」
うるさそうに少年が振り向く。
歓迎されていない雰囲気をひしひしと感じ取りながら、それでも光は云った。
「・・・ありがとう。オレ、立ち入り禁止の所に来ちまったのに、案内してくれて。
ホント、ありがとなっ!」
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礼の言葉と共に光がにぱっと笑うと、少年は目を剥いてその場に立ち竦んだ。
何かとんでもないことでも云われたように硬直して、口をぱくぱくさせている。
――あれっ。
また迷惑がられるかもという程度の予想はしていたが、
ここまでの反応が返ってくるとは思っていなかった。
「え・・・えと?・・・えへへ・・・へ」
とりあえず笑ってみた光に、少年は我に返ったように息を吸い込んで怒鳴った。
「・・・そ、そんな言葉に騙されんでーっ!都人云うのはほんま恐ろしいわ、
どいつもこいつも、・・・アンタなぁ、無駄口利かずに黙ってついて来たらええがな!」
「う、うん」
どう考えてもこの少年の反応は過剰だと思うのだが、何か事情があるのかもしれない。
今はとにかく、件の聖と会える可能性のある場所に連れて行ってもらえるなら
それで良かった。
ずんずん進んでいく少年の後を追いながら、ふと思いついて光はもう一度だけ声をかけた。
「なあっ、オレ近衛って云うんだけどさ、オマエのことは何て呼べばいい?」
「・・・シロ」
「え!?」
シロとは聖が飼っているという白犬のことではないのか。
ぎょっとして聞き返した光を面倒そうに振り返って少年は云った。
「あぁ?社って、そんな珍しい名前でもないやろ。ほんま、イヤミな都人やなぁ」
「あ、・・・ゴメン・・・」
――やしろ、とシロ、を聞き間違えたのだ。
聞こえよがしにフーッと溜め息をついて山の奥へと分け入っていく少年を、
光は慌てて追った。
夜の中でも雪のように目立つ白銀の頭髪をしるべにしながら、
例のシロもこんな色をしているのだろうかと、ふと考えた。
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案内された庵の主は吉川上人その人だった。
「まあ、座り。何もあらへんとこやけどな」
先刻の天から降ってくるような轟声からは想像もつかない
目尻の垂れた優しそうな風貌と福々しい微笑みに、光はホッと安堵した。
草葺きの庵は粗末ではあるが隅々まできちんと掃き清められ、
書物や薬籠の類や僅かな什器が整頓されて置かれている。
ごたごたと物の散らかった己が住まいに比べ、俗世を離れて修行に励む上人の
清廉な暮らし振りが窺えるようだった。
――そう云えば、賀茂の邸もこんな風にいつもきちっと片付いてたな。
物がないわけではないのに主に似てどこかそっけなく、つんと澄ましているようなあの邸。
あそこで今頃、明はどうしているのだろうか。
緒方がついているから心配はないと思うが、きちんと食事は摂ったのか。
体内の妖しにまた苦しんではいないか――
「・・・で、ここ来た理由言うんは?」
「あ、はいっ。実は・・・!」
明が見たら驚くような真面目な顔をして、光は居住まいを正した。
「うんうん、なるほど。友達のために、わざわざここまでなぁ」
福々しい微笑みで吉川上人は頷いた。
横から社が二人に湯を勧める。
そう言えば評判の「シロ」の姿をまだ見ていないが、
庵の外に繋がれていたのを見落としでもしたのだろうか。
「オレと一緒に来て、賀茂を助けてください。お願いしますっ!」
胡坐を掻いたまま、床に額がつきそうなほど深く頭を下げた。
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