平安幻想異聞録-異聞- 53 - 54
(53)
その粘液が触れた所から、じんわりと熱が広がり、あらゆる神経がマヒしていく。
冷たさも、熱さも、痛みも、何かに触れられているという感触でさえ、
その場所からは消えていく。その代わりに徐々に体を冒すものは、
身の毛もよだつような…。
「く……ぅん……」
ヒカルは、自分の神経を急激に侵食するその魅惑的な感覚に
抵抗しようともがく。
後ろの門の周りを、涎をたらして探るモノはそのままに、他の蔓が
夜着のすそから侵入し、胸を這い登り、その小さな乳首へとたどり着く。
「や、……ぁ……佐為っ」
「………ヒカル!」
ヒカルは必死に手を伸ばす。佐為も、せめてヒカルに触れたくて、
その妖しの肉の檻の中から救い出してやりたくて手をのばす。届くべくもなかったが。
そして、その佐為の手首にさえ、それは絡まり、まるで邪魔させぬと
いわんばかりに、佐為の細い手首を締め上げた。強烈な痛みに佐為が
苦悶の表情でうめき声をあげた。
「―っっ!佐為っ!」
その様子に、つかの間、ヒカルが自分の身も忘れて叫ぶ。
だが、すぐ同時に別の細い蔓が、ヒカルの幼い自身にからみつき、
しゃぶり上げるように吸い付いた。
「は……!ひっ……ん」
ヒカルは流されまいと、自分の体を開かせようとする蔦の力に、
渾身の力をこめて抵抗し、体を丸めようとする。
だが、その肉の蛇は、それ以上の力でヒカルの体を押し開き、その体を上向かせると、
その手をヒカルの頭上にまとめ上げるように拘束し、両の足首に絡みつき、
その足を、大きく左右に開かせた。
瞬間、ヒカルの体を大きな恐怖が走った。
頭の上で、両手を一緒に絡めとられ、頑健な力で、開いたまま両の足をきつく固定される。
――その時、ヒカルの目に映っていた下弦の月。
――秋の夜風に揺れる、黒々とした竹の葉。
「いやだーーーっっ!」
(54)
ヒカルは、大きく身をよじった。
それを許すまいと蔦の形をしたものが、更にきつくヒカルの体を戒める。
――野犬の目をした男達。
自分の肌に吹きかけられた男達の息の熱ささえ、鮮明に思い出される。
「いやだっ!やだっっ!やっ……!!」
そのヒカルの口を、蔓の一本が、猿轡をするようにして塞いだ。
ヒカルはそれに思いきり噛みついたが、刀でも切断できないそれが、
人の歯で噛みきれるワケもなく。
それどころか、ヒカルが噛みついたところにわずかに傷がつき、
そこから青臭い淫液が滲みだして、ヒカルの口の中に落ちた。
「やっ…ぁぁ……ン」
口腔内に刺すような刺激が広がり、ヒカルは頭を強く振る。
頭の奥がじ…んとさせる、甘いしびれ。
蔦のうちひときわ太いものが2本、股の間を這い入ってヒカルの秘門の
周りをさぐり、白い粘液で汚し始める。
「あ……ぁ……」
思わず声が漏れた。その2本の蔦の嬲る動きに、まざまざと記憶に蘇るのは、
あの日、自分の体の上を這った、座間の、菅原の、男達の手の感触。
「やめ……やだ………」
ヒカルは太ももを閉じようとするが、より強い力で引きもどされる。
ヒカルを責め落とすことに夢中になった異形の、佐為を押さえる力がふと緩んだ。
「ヒカル!」
その期に佐為が、這うようにしてヒカルににじり寄り、手を差し伸べる。
ヒカルが手を伸ばせば、今度は届く距離だった。
「ヒカル、手を……!」
だが、当のヒカルに、佐為のその声は届かなかった。
今、ヒカルの耳に聞こえているのは、あの夜、自分を征服した男達の野卑な笑い声と、
荒げられた呼吸の音。男達の陽根が出し入れされる度に淫猥に耳をなぶった、精液の泡立つ音。
体を貫く、逃れようのない、熱と痛み。
「は……やだぁ……」
自分の中に掃き出された、気味の悪いものの感触を、頭より先に体が思い出し、
ヒカルのわき腹がひきつって震えた。
戒められたまま恐怖のために抗うことも忘れた手は、血の気がひいて白くなり、
吹き出た汗で、じっとりと濡れている。
白泥した淫液で穢され、慣らされてもいないその場所に、2本の蔦が絡み合って
その先端をねじ入れた。
「あ゛ーーーーーっっ!」
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