平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 53 - 54
(53)
内蔵を掻き回される異様な感覚に、正気が戻った。
泥臭い臭気が、どっと意識のうちに流れ込む。
盗賊の、固く反り返ったものが、すでにヒカルの奥深くまで埋め込まれていて、
その腰がヒカルの尻に打ち付けられる度に、喉の奥に吐き気のようなものが込み
上げてくる。
……この二年、佐為しか迎えたことのなかった場所を、こんなやつに。
……盗賊なんかに。
奥歯を噛みしめると、殴られた後頭部が鋭く痛んだ。
ヒカルは、己の置かれた状況を確認するため、ゆっくりと、薄く目を開ける。
闇の色だけが目の前に広がってる。
ここは何処なのか。
股間を行き来する、固い他人の陰毛の感触。
砂利にこすられる背中が痛い。
「おう、目が覚めたらしいぞ」
「検非違使様に、もうワレが、儂らの肉奴隷なのだと教えてやれ」
腰が持ち上がるほど、大きく突き上げられた。
肩に押されて動いた砂利の音とともに、ヒカルの口から、細い悲鳴があがる。
段々と闇に目が慣れてくると、自分を覗き込む、複数の男達の姿がわかった。
その向こうに屋根のように黒々と、視界を遮るもの。
水の匂いと、せせらぎの音。
たぶん、ここはどこかの橋の下だ。
(54)
「おめぇが、最初、こいつを連れて行こうと言いだしたときは、気でもふれたか
と思ったが」
「まさか、検非違使様にこういう使い道があるとはなぁ」
「へっへっへっ……」
もう一人の男の毛深い手が、大きく開かされているヒカルの股の間に無遠慮に
差し込まれ、ヒカルが熱棒で突き刺されている部分の周囲を、指で嬲った。
ヒカルは眉をしかめ、足を閉じようとしたが、その動きは、中でヒカルの媚肉を
貪る男に、新たな快感を与えただけだった。
実際、盗賊達は逃げるので精一杯だったのだ。
男はこの若い検非違使を殺してしまうつもりで、刀を振り上げた。
だが、その男の目に映ったのは、倒れ伏した検非違使の闇夜に浮かぶ
濡れたように白いうなじ。
たったそれだけで、下半身が焼けるように熱く反応した。
仲間が降り下ろす小刀を受け止める、その太刀を抜く仕草さえが、妙に
色めかしい。
実は男装の女なのではないかと疑って、咄嗟に、立ち上がった若者の
その背後から、腰に腕をまわして引き寄せた。肉付きは薄いが、女の柔らかさは
ない。自分の腰にあたる尻の感触もまた、女のむっちりとしたものとは違うよう
に思われた。
男は、検非違使にもがく隙もあたえず、その頭にだまって、刀の柄を降り下ろ
した。
ものも言わずに、腕の中の体がくずれ落ちる。
ぞの場にいた三人の盗賊は、闇の中に力なく横たわったその若い検非違使の
体を、しばらくじっと立ち尽くして見つめていた。
三人は、今になって検非違使を手にかける恐ろしさを思い出していた。検非違使を
手にかけたとなれば、ただの強盗以上に罪は重い。
盗賊達は、あわてて若い検非違使の呼吸があることを確かめると、そのままそこ
から逃げ出そうとした。が。男は、その体を荷物のように担ぎ上げた。
他の盗賊がそれを止めたが、彼は黙って走り出した。
|