初めての体験 Asid 53 - 54


(53)
 社の服を整えて、壁に寄りかからせる。まだ、辛そうだが、まったく動けないわけでは
ないようだ。ぼんやりと、ボクが身支度を整えるのを見ていた社が問いかけてきた。
「……あんた…進藤にも…こんなことする気なんか?」
『キミには関係ない!』と、言ってやろうかと思ったが、止めた。社は進藤が好きなのだ。
ボクが、進藤を自分がされたような目にあわせるのではないかと心配している。
「心配いらないよ…進藤を傷つける気はないから…」
進藤に出来ないことを、余所で発散させているのだ。進藤を泣かせるようなことするわけ
ないだろう?もう一回泣かすぞ!
 それに、散々楽しんだあとでこう言うのもなんだが…スタンガンはボクの目指す物から
どうも外れているような気がする。なんというか…上手く言えないが…ボクはもっと、
芸術性を追求したいのだ。確かに、包帯にはそそられたが、スタンガンはまた使いたいとは
思わない。もともと、進藤の自衛のために手に入れたのだ。だが、こんな危ない物を
進藤に持たせるわけにはいかない。奪われたら、彼が危険だ。

 ありがとう社……直接口には出さないが、本当にキミには感謝している。
キミのお陰で、進藤の危機を回避できたよ。スタンガンは危険だ。危ないヤツが持つと
とてつもなく恐ろしい武器だ。それが、よ―――――っくわかった。進藤のか細い腕では、
間違いなく相手に奪われ、餌食になる。

 ああ、そろそろ帰らなければ…進藤が待っている。俯いている社に、声をかけた。
「今日、帰るんだろ?何だったら駅まで送っていこうか?」
最後の嫌がらせだ。
「……ええわ…遠慮しとく…ちょっとしんどいし…ここで休んどくわ…」
社が力無く首を振った。…………しんどい……か…。なるほどね。
「そうかい?それじゃあ、北斗杯楽しみにしてるよ。」
ボクは社に、笑いかけた。そして、彼を置いて棋院を後にした。


(54)
 帰る途中、ボクはスタンガンから電池を抜いた。部品を壊して、そのまま不燃ゴミと
して捨てた。ヘタに捨てて、バカに拾われて悪用されたら寝覚めが悪い。社が知ったら、
「悪用しとるんは、アンタや!」と、ツッコミが入るかもしれない。まあ、どーでもイイ
話だな。

 ボクが家に戻ると、進藤が奥から駆け出して出迎えてくれた。
「おかえり!もぉ、遅ェよ…」
「ゴメン…」
進藤が、ボクに抱きついてきた。
「この家広いんだもん…オレ、ちょっと寂しかった…」
ああ…本当に可愛い。こんな可愛い進藤に、スタンガン…ダメだ…出来ない。そんなことの
出来るヤツは、鬼か悪魔だ。
 ボクにしがみついている進藤の指に、幾つも絆創膏が貼られていた。
「進藤、手をどうかしたの?」
進藤は、ボクから手を離した。赤くなって、モジモジとしている。
「オレ…晩メシ作ったんだ…カレーなんだけど…塔矢、カレー好き?」
進藤が食事を!?進藤が作った物に文句などあるわけがない。泥団子だって食べてみせる!
「インスタントラーメン以外は、カレーぐらいしか作れネエんだ…」
と、照れくさそうに言った。
 ああ、そんな顔しないでくれ。心臓を直撃だ!ボクは、カレーよりキミが食べたい!
だけど、進藤の心遣いを無下には出来ない。最初はカレー、次にキミを食べさせてくれ。



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