Shangri-La第2章 54
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ヒカルを起こさないよう、アキラは少しずつ動いたが
動くたびに、ヒカルはぴくり、ぴくりと手に力を込めるので
相当に苦労して、ようやくアキラは布団を出た。
起こしてしまったかと何度も思ったが、抜け出てみると
ヒカルはどう見ても起きそうになかった。
ヒカルが眠っていることを確認すると、アキラは名残惜しく部屋を出た。
いつまでか分からないが、ヒカルと一緒にいられる時間には
限りがあると分かっている。分かってしまったからこそ、一秒でも早く
ヒカルの元に戻りたい。大切な時間を、離れて使いたくない。
浴室で、少し勿体ないような気もしながら
身体中を、とにかく大急ぎで、しかし念入りに洗った。
手早く済ませて、慌ただしくヒカルの眠る自室へと戻り
音を立てぬよう襖を開けて忍び入ると、ヒカルはアキラの代わりか
枕を抱いた妙な体勢でまだ眠りこけていて、その姿が愛らしく思える。
そんなヒカルの側にしゃがんで、そっとヒカルの前髪をかき分けると
隠れていた楽しそうな寝顔が現れた。
ほうっと一息つき、髪から滴り落ちる水分を拭うと
静かにヒカルの頬を撫で、髪を撫でた。
さらさらとした感触が心地よい。
頬の温かさが、これは夢ではないとアキラに教えている。
嬉しくて、何度も何度も、飽かずヒカルを撫で続けた。
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