無題 第2部 55


(55)
「ふれあい囲碁まつり」のポスターを見たのは偶然だった。
最近、街中でも「碁」の字につい反応してしまう。
だが、その時更にヒカルの目を引き寄せたのはその中の「塔矢アキラ」の文字だった。

まだ開始までは随分と時間がある。
ヒカルはそっと部屋に入り、中を見まわした。
広い室内に、ヒカルの目はすぐに目的の人物の姿を探し当てる事が出来た。
彼は椅子に座って、参加者が連れて来た子供と話していた。
何か話しかける子供に優しい笑顔で応えている。
―あんな、優しい顔もできるんだ。
ヒカルの一番よく知っている彼は、鋭い真剣な眼差しで対局相手を、碁盤を見詰める顔だった。
だが今はそんな鋭さなど嘘のような、穏やかで優しい笑みを浮かべている。
今まで見た事の無かった彼の表情に、ヒカルはうっとりと見惚れていた。
―子供、好きなのかな。いいなぁ、可愛いなぁ…
そんなヒカルの視線に気付いたのか、彼は顔をあげ、ヒカルの方を見た。
「進藤?」
アキラの顔がぱっと明るく輝いて、ヒカルに向かって笑いかけた。
「どうしたの?今日はキミが来るなんて聞いてなかった。」
子供に微笑み掛けてから、立ち上がってヒカルの方に近づいてくる。
それなのに、ヒカルはそんな彼を正視する事が出来ずにうろたえた。
顔が熱い。動悸がする。
「進藤…?」
そんなヒカルを見て不安そうになったアキラの表情には気付かないまま、ヒカルは彼に
背を向けてその場を逃げ出した。



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