落日 55


(55)
初めは拒まれているとは思わなかった。己を拒むような者がいるなど、思いもしなかった。
碁盤を挟んで彼と相対し、優美な白い指が自分の打った石に応えるとき、より正しい、美しい筋へ
と導こうとするのを感じる時、なぜか胸が高鳴るのを感じた。
それなのに、盤上ではあれほど優しく自分を導いてくれた彼は、一たび盤を片付けててしまうと、
こちらがどうとりなそうと、柔らかく微笑みながらも、きっぱりとそれらを拒絶した。どれ程高価な宝
物も、珍しい綾錦も、彼の心を動かすには足りなかった。
次第に苛立ちが混ざる。
それでも彼の姿を目にし、対局しながら彼の指導を受け、終局した後にはどこか硬く逸らされる彼
の眼差しを目にする時、正体もわからぬ何かが、胸の中で蠢く。そのざわめきが彼を引きとめよう
とし、だがそのざわめきが彼をまた遠ざける。己が彼を呼び、取り立てようとすればするほど、傍に
置こうとすればするほど、彼は自分を拒み、自分から遠ざかって行った。

それとも拒まれたからこそ自分は彼を望んだのだろうか。
わからぬ。
なぜなら生まれてからこのかた、自分を拒んだものなど彼を除いていないのだから。



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