平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 55 - 58


(55)
向かうは、仲間達と落ち合う約束のある橋のたもと。
闇の中にも黒々とよこたわるその流れの淵に、彼らは逃げ込むと、他の盗んだ
品々とともに、検非違使の体を地面に投げ出した。
ここまで担いできたその男が、検非違使の小袖の袷を開いて、あらわにした。
彼は、いまだにこの若者が男であることを疑っていたのだ。
ガサガサの松の木肌にも似た固い皮膚を持つ手が、獲物の胸をまさぐって、
そこに膨らみがないことを確かめた。
だが、その時にはもはや、男の中で荒れ狂う獣欲に、相手が男だとか、女だとか、
そういうことは関係がなくなっていた。
男を惑わしたのは、いったいなんだったのか――?
橋の下の暗がりで、小刀の刃が、水面のわずかな光りを反射して青白く光った。
音もなく検非違使の下袴が切り裂かれて、そのなめらかな手触りの若々しい肌が
あらわになった。
その光景に、端で見ていた二人の盗賊も、無自覚に喉をならして、唾を飲み込んで
いた。
男が、二本の白い足を押し広げ、その間に腰を入れる。
やがて、川のせせらぎの音に混じって聞こえ出す、不規則な男の激しい息遣い。
ジャリッ、ジャリッ……
男の腰遣いの激しさゆえに、検非違使の背中が河原の小石に擦られる音が、
わずかな虫の音に混ざって響く。
ただ女を犯すのとは違う、異様な興奮が盗賊達を支配しつつあった。
常に自分達を脅かす存在である検非違使を姦するのだ、盗賊である自分達が組み
敷いて犯しているのだというその事が、なんとも残酷な加虐欲を、彼らの中に
芽生えさせていた。
「そうだよな。女なら、お頭のお手付きになる前に俺達が手を出したら、えらい
 ことになるが、男なら問題あるまいよ」
「おい、つ、次は、お、俺にまわせ」
橋の下で、盗賊達がひそひそと言葉をかわす。
男の荒々しい息遣いに、野犬が唸るような低い呻き声が折り込まれる。


(56)
そして、その呻き声の感覚がいっそう短くなり、
「…うっ……ぐ」
ガマが押しつぶされたような快楽の声が上がって、男が暗がりの中でゆっくりと
立ち上がった。
その股間のものは、獲物の内蔵を貪って満足したのか、今はもう名残の液を
尖端からしたたらせたまま、ぐったりとうなだれている。
「お、俺も……」
着物の上からも骨の形がわかるほどに痩せこけて、背ばかり高い男がかがんで、
気を失ったままの若い検非違使の腰をつかんだ。
尖って、すでに白い涎をタラタラと滴らせている充血した陽根を自らの手で、
その欲望の穴の淵にさそう。
そのすぼまりは、すっかり柔らかくほぐされ、二度目の情交を待ち望んでいる
ように思えた。
痩せこけた男の、汁を含んで張りつめたそれが、検非違使の体の中に押し込まれる。
中に溜まっていたまだ生温かい樹液が、押しだされて検非違使の尻の肌の上に
幾筋かの白く細い流れを作った。
今度は河原に、荒々しい吐息と混じって、グチャリグチャリと湿った音が響く。
「こ、こいつ……。顔も、きれいな顔、してるぜよ」
男根を間断なく抜き差しさせながら、組み敷いた体にのし掛かり、体全体を
こすりつけるようにしていた痩せ男が、息を吐きながらつぶやく。
のぞきこんだ検非違使の、体つきから想像するより、ずいぶんと幼さのある顔立ち
に更に情欲をかき乱される。
その時、闇のとばりの中、砂利の上に放りなげられていた検非違使の若者の
指先が、ピクリと動いた。
ゆっくりと、まぶたが上がるのに盗賊達は気がついた。
「おう、目が覚めたらしいぞ」
「検非違使様に、もうワレが、儂らの肉奴隷なのだと教えてやれ」
その場を、常ではない高揚感が包んでいた。
見物している仲間の激に痩せ男が煽られて、検非違使の背中が浮くほど強く、
その体の奥まで串刺しにした。


(57)
「放せ……、放せよっっ!」
人気のない河原に、ヒカルの声が虚しく響いた。答えるのは、草陰の
虫の音だけだ。
暴れる上体を、ヒカルの腕の二倍も太いような盗賊の腕が捕らえて、
砂利の上に押さえつけた。
「…う………っ」
「検非違使様は、まだ御自分の立場が、わかっていらっしゃらないようだ。
 教えてやれ、教えてやれ」
ヒカルの挟門に突き刺さったそれが今度は左右に大きく動かされる。
痛みより先に、痺れるような甘さがヒカルの背筋の上を走って溶けた。
まずい、と、思った。体の奥でよどんで溜まっていた、自分の一番暗くて
醜い部分を鷲掴みにされた気がした。
おそらく自分はこの責め苦に耐えられない。
ただでさえ、あの方違えの夜に、伊角に半端な昂ぶりのままに放りだされた
体は、ちょっとした刺激にも簡単に高められてしまう状態だ。
このままではきっと、自分は、浅ましく乱れて、下衆共の目にとんでもない
狂態をさらしてしまう。
暗闇に目をこらしても、見えるのは獣じみた盗賊の顔の輪郭と、空を覆う橋の影。
耳をすましても、聞こえるのは静かな川の流音と、僅かばかりの虫の声。草の
葉が風に擦れる音
助けなど、こようはずもない。
ヒカルは、肉の交わりの快楽に どこまでも弱い自分の体を呪った。
男が呻吟の声を上げながら、乱暴に中を何度も摺り上げる。ただ闇雲に出し入れ
しているだけのこんな動きにも、熱くなりつつある自分の体がいっそ疎ましい。
唇を噛みしめ、盗賊が早く終わってくれることを願いながら、欲情に自分の体が
蝕まれていくその音を聞く。


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心には反吐がでるような嫌悪感しかないのに、体はその快楽を受け入れて、更なる
熱を求めている。
そんな自分に何より虫酸が走った。
盗賊が、より強いつながりを求めてヒカルの腰を抱え直し、その拍子にヒカルの口
から、鼻にぬけたような高い喘ぎが洩れた。
「なんだ、こ、こいつ、感じてるぜよ」
盗賊達の忍び笑いが聞こえる。悔しくて再度の抵抗を試みたが、今度は腕だけで
なく、肩まで盗賊がその膝をつかって地におさえつけ、がっちりと動けないように
されてしまった。
その体勢のせいで、その男の股間がすぐ頭の上に来た。その股間に隆々と自己を
主張する一物に、こいつもするんだろうか、と、ヒカルは暗く考える。
ほんの僅かでいい。反撃の機会がありさえすれば……。
ヒカルの中を苛む痩せた男の尖ったものが、いよいよ激しく細かく抜き差しを
始めた。
腹の底から熱い塊のようなものが込み上げてきて、それは喉で嬌声に変わり、
噛みしめた唇の間から虚しく漏れでた。
「ん,…っ、…ん」
自分の下肢が、益々火照って、その先の快楽を欲している。頂点を求めて
震えている。
(あぁ……、やだ、イキたくない)
しかし、ヒカルの思い通りにならない淫靡な体は、この悦楽を逃がすまいと、
中にはまっている男の根をよりしっかりと銜え込む。
「こいつ、男に、だ、抱かれなれてやがる」
「んっ、あ、ああっう!」
男が喜んだように猛々しく腰を強く引いてから、勢いをつけ、最奥に尖端を
押し込む。その動きに、しっかりと閉じていたはずのヒカルの唇が開き、
感極まったような喘ぎが、河原に高く響いた。
それに調子づいた男はいよいよ激しく中を攻めたてて、抱え込んだ若い体を
頂点の間際へと追いつめる。
「ぁ、や、ぁ、ぁ」



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