誘惑 第三部 56


(56)
「…ってね、芦原さんにばらしちゃった。」
電話の向こうの、アルコールのために饒舌になっているアキラの笑い声を聞きながら、ヒカルは
呆れたように言った。
「おまえら……ひでぇ…。芦原さん、可哀想じゃん、なんか…」
「まあ、芦原さんも信じてなかったみたいだけどね。」
「そりゃあそうだろう。」
「だからさ、今度キミも一緒に飲みに行かない?見せ付けてあげようよ。芦原さんに。」
「おまえ、いい加減にしろよなぁ。大体、未成年だろ、おまえ。」
「ああ、そっか、キミ、酒はあんまり強くないんだっけ。」
「だからまだ未成年なんだから、当然だろ。」
「ハハ、潰れたらボクが介抱してあげるから。」
「やだ。」
ヒカルは即座に断った。
「やだ。おまえが介抱するってなんかヤな気がする。何されるかわかんねぇじゃねぇか。」
「何されるかって、ボクが何するって言うのさ?何期待してるの?」
「期待なんかしねぇよ!バカ!!」
「しないよ。酔っ払って潰れてるヤツ相手にやったってつまんないじゃないか。」
つまるとかつまんねぇとかじゃねぇだろ。
やっぱ、オレはこいつに遊ばれてるのか?
ああ、畜生。どーせオレはガキだよ。カワイイよ。
いいさ。好きなだけオレをからかって、ユーワクして、遊べばいい。
「それより進藤、明日は?何時頃来れる?」
「あ、うん、いや、行ってもいいんだけど、えーと、たまにはウチに来ない?」
「え?」
「お母さんがさあ、なんか、いっつも塔矢くんちに遊びに行ってばっかじゃなくって、たまにはウチに
来てもらいなさい、って。」
「え?え…と、もしかして、あの…やっぱり快く思われてらっしゃらないんだろうか…」
「あ、ううん、それはないと思う。お母さんも塔矢くんに会いたいわあ、なーんて言ってたし、」
「え、ええっ?」
「なーに照れてるんだよ、バカ。で、どう?だいじょぶ?」
「勿論。それじゃ…」



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