平安幻想異聞録-異聞- 56
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次の朝、部屋の惨状を見て、驚いたのはヒカルの家族だった。
どういうわけか、あれだけの騒ぎにも関わらず、音は外に漏れておらず、
ヒカルの母も祖父も夜半に何が起きたか気付いていなかったのだ。
いぶかしむ近衛家の人々を、「盗賊が入って、見事にヒカルが撃退したんですよ」
といってケムに巻きながら、佐為は、柱を見上げた。
そこにあったのは数日前、アキラが置いていき、自分がはりつけた、破邪の札。
術力を放出し、力を使い果たしたそれは、今は黒焦げた唯の紙になっていた。
(アキラ殿、助かりました)
佐為は心の中で礼を言う。
部屋の片づけをヒカルの母に任せて、佐為は、青い顔でうつむいたままの
ヒカルを支え、朝餉の席につく。
そのあと、ヒカルは、家族の目のないところで、食べたものを全部吐いて
戻してしまったが。
そのヒカルの背をさすりながら、佐為は切りだした。
「ヒカル、アキラ殿の所に行きましょう」
「賀茂の…?」
ヒカルが弱々しいしぐさで顔をあげた。
「えぇ、これは、どう考えても、誰かがヒカルに向けて仕掛けた呪としか
思えません。ならば、その方面にお詳しい賀茂アキラ殿に助けを求めるの
が道理でしょう」
「うん……そうだな……」
賀茂アキラの家に向かう途中、ヒカルは佐為の右手を見た。
昨晩、魔物に搦め捕られたその手首には、何かできつく縛られたかのような
赤い帯状のあざが出来ていた。
佐為の白い手首にその痣は浮き立つように目立った。
ヒカルは黙って、そこに手を伸ばし撫でていた。
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