初めての体験 56
(56)
ガウンを羽織っただけの姿で、洗濯機を回していると、ヒカルが寝室から
声を掛けた。
「先生──。なんか服貸してよ──。」
緒方はクローゼットをかき回して、何とかヒカルが着られそうなシャツと
チノパンを出した。
標準より小さいヒカルには、緒方の服は大きすぎた。仕方がないので、袖も裾も何重にも折り曲げた。服を着ているというより、服に着られているといった状態だ。
緒方はヒカルの全身を上から下までまじまじと見つめてしまった。少女が男物の服を
着ているように見える。ヒカルが首を傾げて、不思議そうに緒方を見つめ返した。
その姿があまりにも可愛くて、緒方の中によからぬ感情が湧き起こってきた。そんな情動に
緒方は自分自身で戸惑った。ますます自己嫌悪に陥りそうだ。
緒方の複雑な心情に気づいていないのか、ヒカルが無邪気に言った。
「先生、酒臭いよ。風呂入った方がいいんじゃない?」
「あ──。そうだな…。」
緒方は、溜息混じりに返事をして、前髪を掻き上げた。
「先生。オレが背中流してやろうか?」
「!!ば…馬鹿!」
「何だよ。ぼーっとしてっから、手伝ってやろうと思ったのに…。」
「結構だ。一人で入れる。」
チェッとヒカルはふくれっ面を作った。その顔を横目で見やりながら、
『これ以上煽るような真似をされては堪らない。さっさと家に帰そう。』
と、緒方は思った。 洗濯物を乾燥機に放り込んで、そのまま浴室へ入った。
|