トーヤアキラの一日 56 - 57
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問題はヒカルが受け入れてくれるかどうかだったが、今までアキラの申し出を拒否された
のは、早碁対決のきっかけになった時だけで、何だかんだと文句を言いつつアキラの
行動をいつも容認してくれた。むしろ、始めれば積極的に楽しんでいるようにも思えた。
こうなったら絶対に早碁対決に勝たなくてはいけない。
アキラは机の横の一番下にある大きな引き出しを開けた。上に載っているファイルを
どかすとプラスチックで出来た灰色のお道具箱を取り出した。普通の道具入れだが、
蓋の所に簡単な数字を合わせて開ける鍵が付いている。これが無くても無理やり開けようと
思えば開けられる程度の道具箱であったが、この鍵が付いている事でアキラにとっては
家族に絶対秘密のお道具箱になっている。
───ごーまるさん
アキラは嬉しそうに鍵を「503」と合わせて蓋を開けると、まとめ買いしてあるコンドームの
上に、まとめ買いしたローション三本と品物を入れた。
その時また玄関のチャイムが鳴った。
───?なんだろう?
アキラは慌ててお道具箱を机の引き出しにしまうと、宅急便の箱を机の横に置いて、玄関に
向かった。
「塔矢さーん!すいません!」
「はい?どなた様ですか?」
「隣の田代ですが、回覧板ですぅ」
「・・・・あ、はい、今開けます」
アキラが鍵を回して戸を開けると、見覚えのある年配の女性が立っていた。
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「あら、どうも、隣の田代です。まあ、アキラ君久し振りね!大きくなってェ、ホホホ。
新聞で見たわよ!最近は大活躍なんでしょ!凄いわ、本当に。お父様もお喜びでしょ!
ホホホ。あ、やっぱりお母様はお留守なのね。そうじゃないかと思ったけど、ほら、
至急の回覧板なものだからやっぱりねェ、ホホホ。内容はね、ほら、あっちのマンションの
工事が始まるので、その工事車両通過の注意事項と私道の通行止めの事なのよ。でもこの
辺りには車両は通らないみたいだから、私道を通れない事位かしらね問題なのは、ホホホ。
でもねェ、アキラ君に隣に回してもらうのも可哀想だし、もし何なら印鑑さえ押して
貰えれば私が回すわよ。どう?ホホホ。」
「・・・・・・・あ、あの、そうして頂けますか?」
「ええ、いいわよいいわよ〜。印鑑だけお願いね、ホホホ」
「あ、今すぐ持ってきます」
アキラは急いで部屋に戻って印鑑を取ってきた。アキラが玄関に戻ると、戸の中まで入り
込んでいたおばあさんはキョロキョロと家の中を覗き込んで興味深そうにしていた。
「あ、お待たせしました」
「あら、早いのね。じゃあここにお願いね」
アキラが内容に目を通して印鑑を押すと、回覧板を持ったままおばあさんはまた話し出す。
「ほら、小さい頃アキラ君に何度か遊んでもらった孫のまさしがね、今度海王中学に
入ったのよ!アキラ君の後輩になったのよねー」
アキラは全く覚えていなかったが、笑顔を作ってお祝いを言う。
「それはおめでとうございます」
「ホホホ!ありがとう。海王中の囲碁部は強いのね!まさしもちゃんと教えて頂けば
良かったわぁ」
「・・・・・・・」
「あら、ごめんなさいね、お忙しいのに、ホホホ。それじゃ、お母様がお戻りになったら
よろしくね」
「あ、はい。回覧板よろしくお願いします」
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