平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 56 - 60


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そして、その呻き声の感覚がいっそう短くなり、
「…うっ……ぐ」
ガマが押しつぶされたような快楽の声が上がって、男が暗がりの中でゆっくりと
立ち上がった。
その股間のものは、獲物の内蔵を貪って満足したのか、今はもう名残の液を
尖端からしたたらせたまま、ぐったりとうなだれている。
「お、俺も……」
着物の上からも骨の形がわかるほどに痩せこけて、背ばかり高い男がかがんで、
気を失ったままの若い検非違使の腰をつかんだ。
尖って、すでに白い涎をタラタラと滴らせている充血した陽根を自らの手で、
その欲望の穴の淵にさそう。
そのすぼまりは、すっかり柔らかくほぐされ、二度目の情交を待ち望んでいる
ように思えた。
痩せこけた男の、汁を含んで張りつめたそれが、検非違使の体の中に押し込まれる。
中に溜まっていたまだ生温かい樹液が、押しだされて検非違使の尻の肌の上に
幾筋かの白く細い流れを作った。
今度は河原に、荒々しい吐息と混じって、グチャリグチャリと湿った音が響く。
「こ、こいつ……。顔も、きれいな顔、してるぜよ」
男根を間断なく抜き差しさせながら、組み敷いた体にのし掛かり、体全体を
こすりつけるようにしていた痩せ男が、息を吐きながらつぶやく。
のぞきこんだ検非違使の、体つきから想像するより、ずいぶんと幼さのある顔立ち
に更に情欲をかき乱される。
その時、闇のとばりの中、砂利の上に放りなげられていた検非違使の若者の
指先が、ピクリと動いた。
ゆっくりと、まぶたが上がるのに盗賊達は気がついた。
「おう、目が覚めたらしいぞ」
「検非違使様に、もうワレが、儂らの肉奴隷なのだと教えてやれ」
その場を、常ではない高揚感が包んでいた。
見物している仲間の激に痩せ男が煽られて、検非違使の背中が浮くほど強く、
その体の奥まで串刺しにした。


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「放せ……、放せよっっ!」
人気のない河原に、ヒカルの声が虚しく響いた。答えるのは、草陰の
虫の音だけだ。
暴れる上体を、ヒカルの腕の二倍も太いような盗賊の腕が捕らえて、
砂利の上に押さえつけた。
「…う………っ」
「検非違使様は、まだ御自分の立場が、わかっていらっしゃらないようだ。
 教えてやれ、教えてやれ」
ヒカルの挟門に突き刺さったそれが今度は左右に大きく動かされる。
痛みより先に、痺れるような甘さがヒカルの背筋の上を走って溶けた。
まずい、と、思った。体の奥でよどんで溜まっていた、自分の一番暗くて
醜い部分を鷲掴みにされた気がした。
おそらく自分はこの責め苦に耐えられない。
ただでさえ、あの方違えの夜に、伊角に半端な昂ぶりのままに放りだされた
体は、ちょっとした刺激にも簡単に高められてしまう状態だ。
このままではきっと、自分は、浅ましく乱れて、下衆共の目にとんでもない
狂態をさらしてしまう。
暗闇に目をこらしても、見えるのは獣じみた盗賊の顔の輪郭と、空を覆う橋の影。
耳をすましても、聞こえるのは静かな川の流音と、僅かばかりの虫の声。草の
葉が風に擦れる音
助けなど、こようはずもない。
ヒカルは、肉の交わりの快楽に どこまでも弱い自分の体を呪った。
男が呻吟の声を上げながら、乱暴に中を何度も摺り上げる。ただ闇雲に出し入れ
しているだけのこんな動きにも、熱くなりつつある自分の体がいっそ疎ましい。
唇を噛みしめ、盗賊が早く終わってくれることを願いながら、欲情に自分の体が
蝕まれていくその音を聞く。


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心には反吐がでるような嫌悪感しかないのに、体はその快楽を受け入れて、更なる
熱を求めている。
そんな自分に何より虫酸が走った。
盗賊が、より強いつながりを求めてヒカルの腰を抱え直し、その拍子にヒカルの口
から、鼻にぬけたような高い喘ぎが洩れた。
「なんだ、こ、こいつ、感じてるぜよ」
盗賊達の忍び笑いが聞こえる。悔しくて再度の抵抗を試みたが、今度は腕だけで
なく、肩まで盗賊がその膝をつかって地におさえつけ、がっちりと動けないように
されてしまった。
その体勢のせいで、その男の股間がすぐ頭の上に来た。その股間に隆々と自己を
主張する一物に、こいつもするんだろうか、と、ヒカルは暗く考える。
ほんの僅かでいい。反撃の機会がありさえすれば……。
ヒカルの中を苛む痩せた男の尖ったものが、いよいよ激しく細かく抜き差しを
始めた。
腹の底から熱い塊のようなものが込み上げてきて、それは喉で嬌声に変わり、
噛みしめた唇の間から虚しく漏れでた。
「ん,…っ、…ん」
自分の下肢が、益々火照って、その先の快楽を欲している。頂点を求めて
震えている。
(あぁ……、やだ、イキたくない)
しかし、ヒカルの思い通りにならない淫靡な体は、この悦楽を逃がすまいと、
中にはまっている男の根をよりしっかりと銜え込む。
「こいつ、男に、だ、抱かれなれてやがる」
「んっ、あ、ああっう!」
男が喜んだように猛々しく腰を強く引いてから、勢いをつけ、最奥に尖端を
押し込む。その動きに、しっかりと閉じていたはずのヒカルの唇が開き、
感極まったような喘ぎが、河原に高く響いた。
それに調子づいた男はいよいよ激しく中を攻めたてて、抱え込んだ若い体を
頂点の間際へと追いつめる。
「ぁ、や、ぁ、ぁ」


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と、その時、はるか闇の向こうから、何かが激しく水を蹴立てる音が聞こえて
きた。
下流の方より、何かが迫り来る気配に、盗賊達がいっせいに動きをとめ、
ある者は伸び上がるようにして、暗闇の向こう側を凝視する。
松明の火が見えた。二つ。
照らし出された盗賊達が、眩しさに目を細める。
鋭い威圧の声がした。
「観念せよ、盗賊ども。松虫はすでに我らの手に捕らえられたわ。貴様らも
 頭目同様、大人しく我らが縄につながれよ!」
他所に配されていた検非違使達だ。一番の大物を見事捕縛し、さらにその部下も
一網打尽にしようと、捕らえた盗賊からこの場所を聞き出しやってきたのだ。
盗賊達は、突然の事態にとまどいながらも、おとなしく捕まるつもりはないら
しく検非違使が立ちふさがる下流とは反対の上流側へと駆け出そうとした。
ヒカルを犯していた痩せ男も、遅れて達上がる。その時、松明に照らされて、
その男がヒカルの中から抜いたばかりの茶色く汚れた男根が見えた。尖端から
精液を垂らしてぬめっている。あんな汚らしいものが、今の今まで自分の中に
入っていたのだと考えただけでヒカルは吐き気がした。
盗賊達は活路を見いだそうと、盗んだ品の詰まった袋もそのままに、川の中を
バシャバシャと騒がしい音をたて上流へと走り出す。
が、そこにも、松明を持ったふたつの影が立ちふさがる。
「逃げられるなどと、思わぬことだ!」
川上も川下も、計四人の検非違使に挟まれて、盗賊達は腰に帯びていた、手入れも
ろくにされていないような太刀を引き抜いた。


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水音が夜の静けさを破り、検非違使達の美しく鍛えられた太刀の刃が、松明の
明りを移して、闇の中で橙色に映えて光った。
交わされる剣戟の音。
野太い悲鳴と川の流れに何か大きなものが倒れる音がして、あたりは再び夜に
相応しい静寂を取り戻した。
検非違使達が、川面を松明で明るく照らし出す。人の脛ほどしかない水深のそこ
にはすでに、ただの肉塊と化した塊が三つ、半分水につかって横たわっていた。
太刀の血糊を拭いて、検非違使達がこちらにくる。
ヒカルは慌てて、着衣を整えた。下袴は切られて脱がされてしまっていたので、
せめて上の単衣をきちんと着直す。無惨に蹂躙された下肢が隠れるように。
(何があったか、気付かれなきゃいいけど)
一番先頭の検非違使が、そこにヒカルがいることに初めて気付いたように声を
上げた。
「近衛じゃないか!」
検非違使達は一様に驚いたように、ヒカルに駆け寄った。
彼らの顔は知っていたが、名前を思い出せない。伊角の警護などで内裏に出仕
してしまうせいで、勤務時間がすれ違い、こういう風に名前を覚えていない仲間
がヒカルには何人かいる。
「何があった?」
河原の砂利の上に座り込んでいるヒカルの前にかがんで、その検非違使は
気遣わしそうに覗き込む。
夜風がつんとした血の匂いを運んできた。
他の者達は橋のたもとを調べて、彼らが背負っていた大袋を発見し、盗賊が
盗んだ品を検分しているようだ。
「怪我はないか?」
二十代半ばに見えるその検非違使は、ヒカルの単衣が泥土で汚れているのを
見て取って、肩や腕に大きな手傷をおっていないか調べ始めた。



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