初めての体験 56 - 60


(56)
 ガウンを羽織っただけの姿で、洗濯機を回していると、ヒカルが寝室から
声を掛けた。
「先生──。なんか服貸してよ──。」
 緒方はクローゼットをかき回して、何とかヒカルが着られそうなシャツと
チノパンを出した。
 標準より小さいヒカルには、緒方の服は大きすぎた。仕方がないので、袖も裾も何重にも折り曲げた。服を着ているというより、服に着られているといった状態だ。
 緒方はヒカルの全身を上から下までまじまじと見つめてしまった。少女が男物の服を
着ているように見える。ヒカルが首を傾げて、不思議そうに緒方を見つめ返した。
 その姿があまりにも可愛くて、緒方の中によからぬ感情が湧き起こってきた。そんな情動に
緒方は自分自身で戸惑った。ますます自己嫌悪に陥りそうだ。
 緒方の複雑な心情に気づいていないのか、ヒカルが無邪気に言った。
「先生、酒臭いよ。風呂入った方がいいんじゃない?」
「あ──。そうだな…。」
緒方は、溜息混じりに返事をして、前髪を掻き上げた。
「先生。オレが背中流してやろうか?」
「!!ば…馬鹿!」
「何だよ。ぼーっとしてっから、手伝ってやろうと思ったのに…。」
「結構だ。一人で入れる。」
チェッとヒカルはふくれっ面を作った。その顔を横目で見やりながら、
『これ以上煽るような真似をされては堪らない。さっさと家に帰そう。』
と、緒方は思った。 洗濯物を乾燥機に放り込んで、そのまま浴室へ入った。


(57)
 シャワーのコックを捻ると、熱い湯が全身に降り注ぐ。ようやく頭が働き始めた。
昨日の記憶を順番に辿る。塔矢門下の棋士達と外で飲んだ。三件ほど梯子をした後
家に帰り、一人でまた飲んだ。そして…ヒカルが訪ねてきた。
 その後だ。その後がどうしても思い出せない。
 ガチャ──その時、浴室のドアが開いた。
「先生──大丈夫?倒れてんじゃないの?」
緒方はびっくりして、振り向いた。まさか…!進藤の奴…!
 ホッとした。『よかった…服を着ている』
「大丈夫だと言っただろうが!早くドアを閉めろ!」
自分の動揺を悟られないように、緒方は怒鳴った。
 そんな緒方の言葉を聞いているのかいないのか、ヒカルは緒方の裸体をじっと見つめた。
「先生って、意外とがっちりしてるよな。オレも大人になったらそうなれるかな?」
感心するようにヒカルが言った。目はうっとりと緒方を見つめている。
『まずい…!』ヒカルの視線に、緒方の体が反応し始めた。
 緒方が止める暇もなく、ヒカルは素早く浴室に入ってきた。しまった!シャワーを止めて、
そこから出ようとする緒方の手をとって、そのしなやかな指先を口に銜えた。
 ヒカルが赤ん坊のように、緒方の指をしゃぶった。指についた水滴を懸命に
舐めとっている。その間も、頭上から湯が降り注いでいた。ヒカルは、子犬のように
ひたすら指を舐め続けた。緒方は動けずに、ただヒカルを見つめるだけだった。
 髪から水を滴らせながら、ヒカルが緒方を見上げた。ヒカルの髪が額や首に張り付き、
シャツから肌が透けて見えた。頭がくらくらした。のぼせたのか…それとも…。
 『なるようになれだ…!』
緒方はヒカルを抱き込むと、その愛らしい唇に激しくキスをした。ヒカルも緒方の首にしがみつき、
それに応えた。


(58)
 緒方はヒカルがしたように、顔や首筋を伝っている水滴を舐めた。
「んん…くすぐったい…」
ヒカルが身を捩った。ヒカルの反応を楽しむように緒方の唇が、ヒカルの反らせた首筋を
何度も行き来する。
「ああん…やだ…先生…」
緒方は、ぎゅうっと強くしがみついてくるヒカルを、一旦、自分から剥がし壁に押しつけた。
改めて、ヒカルの全身を眺めた。全身ずぶぬれで、もう服を着ている意味はないだろう。
ヒカルのシャツのボタンに手を掛けようとして、やめた。
「先生…?」
「このままの方が…色っぽいかもな…」
 緒方は濡れたシャツ越しに、ヒカルの体の線をなぞった。ヒカルの体がピクッとふるえた。
乳首に触れるか触れないか程度の所を何度も撫でた。その度にヒカルの体が反応する。
「あ…ふぅ…」
緒方が、シャツの上から突起を軽く噛んだ。
「あぁん…せんせぇ…」
甘い声が浴室に響いた。
 ヒカルの体に手を這わせていた緒方の体が、徐々に下がっていき、ヒカルの前に跪いた形に
なった。そのままチノパンを脱がしにかかる。濡れた衣服は重く、まとわりついて、スムーズには
行かなかった。ヒカルは緒方が脱がせやすいように、少し体を捻ったり足を上げたりした。


(59)
 少し苦労をして、何とかヒカルの下半身を裸にした。緒方が露わになったヒカル自身に口を寄せた。
「ん…!」
ヒカルは瞼を閉じて、顔を仰け反らせた。ヒカルの腰を強く抱いている緒方の腕を掴んで、
体を支えた。緒方の動きにあわせて、ヒカルの声が上がる。
「あ…あん…ん…」
ヒカルの体から力が抜けていった。
「や…せんせい…」
 緒方の手が、ヒカルの後ろ割れ目をなぞり始めた。ヒカルの体がビクビクと跳ねる。
 そして、奥にある窪みを探り当てるとそのまま指を沈めた。
 「あぁ…!」
 ヒカルが小さく悲鳴を上げた。緒方は前を口でなぶりながら、後ろに刺激を与えた。
優しく舌と歯でヒカル自身を愛撫し、後ろは指の本数を増やし、捻ったり、さすったりした。
 「あ…んん…せん…せ…」
ヒカルはもう自分で立っていられなかった。緒方が腰を支えていなければ、
倒れてしまいそうだった。そんなヒカルの様子を見て、緒方はヒカルのものを
口からだした。そして、ヒカルの片足を肩に乗せ、体を壁に押しつけると、
そのままずり上がった。
 緒方は、ヒカルの中心に自分自身を押しつけた。ヒカルの体を支えるように
片手を壁につけ、もう片方の手でヒカルの腰を抱きよせた。
 「──────────────!」
先ほどとは比べものにならない快感が、ヒカルの体の中を駆け抜けた。


(60)
 緒方が、ゆっくりとヒカルを揺さぶった。ヒカルは片足を緒方の肩に乗せられ、
もう片方も床に届かず、ぶらぶらと揺れている。
「ひぁ……!あっ…あん…」
 緒方が動く度、濡れた服が体にこすれた。それが敏感になった体に新たな快感を与えた。
「あ…ふぅ…」
緒方の動きが激しくなり、ヒカルは彼の首にしがみついた。
「あぁ…せん…せ…ん…あ…あん…いい…」
ヒカルの喘ぎ声に煽られて、緒方の動きも一層激しくなる。
「し…進藤…!」
「せん…せい…もっと…あぅん…」

「あぁ───────!」
「くっ!」

 浴室にシャワーの流れる音だけが、響いた。



 「先生、風呂上がりの一杯やらないの?」
ヒカルの頭をタオルでゴシゴシ拭いている緒方に、ヒカルは訊ねた。
「まだ…昼前だからな…それに…」
緒方は口ごもった。夕べのことが頭を過ぎった。ヒカルの言うことが本当だとしたら、
当分禁酒をするべきだろう。記憶がなくなるまで飲むなど初めてだった。
「嘘だよ。」



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