クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 57


(57)
――なんだ、こいつ!
全身が総毛立って光は思わず後ろに飛び退き、刀の柄に手をかけた。
京の都で何度か、人を襲う野犬の類をやむなく斬ったことがある。
それらが恐ろしい声で咆哮しながら跳びかかってくる直前の目の光――
憎しみでもない、怒りでもない、ただ己の縄張りを侵し己を害そうとする敵への
本能的な殺意に似たものを、光は男の目の中に見た。

――これ、やめんかいっ!
突然、天から降ってくるような怒声が辺りに響いた。
「うぁっ」
「うぉっ」
光と男は同時に声を上げ身を竦ませた。
男は直前までの殺気もどこへやら、情けない顔で空を見上げきょろきょろとしている。
「お、お師匠様」
天から降ってくるような声は、幾分諭すような調子になって続けた。
――アカンで、儂の弟子になったら、もう短気起こさん云う約束やったろが。
こないな時間になってから危険を押して夜の山を登ってきたんや、何か訳あるんやろ。
話くらい聞いたろやないか、庵に来てもらい。
「は、はいっ!・・・おい、おまえ。そういうことや。
お師匠様の庵まで案内したるさかい、ついて来ーや」
男は少し憮然とした表情で光を振り返った。
 
 



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