無題 第2部 57


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その笑顔の眩しさに戸惑ったのはヒカル一人ではなかった。
彼はその眩しさに目を細めた。だがそれは自分に向けられたものではない。
そしてヒカルに逃げられたアキラは、あからさまににがっかりした様子を隠さなかった。
―フン、これが嫉妬ってヤツか…?
胸の奥に広がる苦さを彼はそう解釈しながら、アキラに近づいて声をかけた。
「やあ」
アキラは、一瞬戸惑った様子で彼を見上げ、だがすぐにそれを押し隠して応えた。
「お久しぶりですね、緒方先生。
今日、こちらにお見えになるとは聞いていませんでしたが…」
それは、先程の表情などかけらも感じさせない、礼儀正しく同門の先輩に挨拶するプロ棋士・
塔矢アキラの顔だった。あるいは無表情と言ってもいい程だ。
「緒方先生」という呼び方が緒方は気になった。
今でこそタイトルホルダーとなり、大抵の若手は「先生」と彼を呼ぶが、アキラは幼時からの
つきあいもあって、いつも彼を「緒方さん」と呼んだ。
「緒方さん」と呼ばれるよりも「緒方先生」と呼ばれるのは一層のよそよそしさを感じて、緒方は
苛ついた。
その苛つきを抑えないままアキラを見下ろすと、彼は冷ややかな視線を返してきた。
その視線は益々緒方を苛立たせた。



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