平安幻想異聞録-異聞- 57


(57)
「痛かった?」
「ヒカルの痛みに比べれば、どうということはありません」
言いながら、佐為は昨晩のことを思い出す。
あの様なおぞましいものを、人にけしかけるなど正気の沙汰ではなかった。
あれをこの世に呼び込んだ人間は気が振れているに違いない。
そして、そんな気が違っているとしか思えない悪趣味なことを、正気のままで
出来る人間を佐為は知っていた。
異形のモノが去った後、体を丸めるようにうずくまって震えていたヒカルの
泣き声が耳について離れない。
――(やだ……やめて………お願いだから…、もう、………許して………)
あの、悲痛な声を聞いてしまえば佐為にだって容易に想像がつく。
あの下弦の月の夜、その者たちはきっと、そうやって泣いて許しを乞うヒカルの
体も心も踏みにじり、思う様傷つけたのだ。
(政争に負けた恨み辛みなら、私自身にぶつければよいものを!)
「佐為、眉間にしわ」
「えっ?」
佐為は、ふとすぐ横のヒカルをみた。ヒカルは佐為の顔を見上げて笑っていた。
「今、お前、すげぇ怖い顔してた」
「碁を打ってる時みたいに、ですか?」
佐為は、ヒカルによく『お前、碁を打ってるときの顔、すごい怖い』と言われるのを
思い出して切り返してみた。
「ううん。碁を打ってる時とは違うかな。碁を打ってるときのお前は
 怖い顔してるけど、なんていうのかな、落ち着いてて綺麗だもん。
 でも、今のお前の顔、怖かった。怒った目をしてた」
「気をつけます」
「別にいいけどさぁ」
そう言いながら、ヒカルは薄曇りの空を見上げる。今年最初の雁の群れが、
空をカギ型になって横切っていた。
実をいうと、ヒカルは少し嬉しかったのだ。
佐為が自分の為に怒ってくれているのはよくわかったていたし、何より
その事で自分は独りじゃないんだと、勇気付けられる気がしたからだ。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル