落日 57
(57)
この都において、自分こそが中心たる太陽であることを知っている。
己の望みとは何の関わりもなく、内裏において、都において、この国において、自分こそが天を統
べる日で在った。望む前に全てを与えられ、この世にあるもの全ては己のために在った。それが
天子であり帝たる自分のさだめであり、またつとめでもあった。
何かを望むまでもなく全てを手中にしていた己が初めて望んだ人はけれど己を拒み、それ故に
ここから消えていった。ここに在るものは全て帝たる自分のためのものだから、その自分を拒む
ものはここに在る事はできない。彼はそれを知っていたから、自らここから消えていった。
全てを与えられると言う事はけれど全てを担うと言う事でもあり、だがそれを嘆いてもどうにもな
るまい。自分はそう生まれついてしまったのだから。
帝の子として生れつき、全ての中心たる日輪たることを約束され、また要求され、そして今、その
ようにしてここに在る。それ以外の在りようを自分は知らない。
けれど、日はまた没するものだ。
「何を笑っておられますの?」
女の声で、現世に引き戻される。
笑っていたのか?自分は。いつか己が没する時の事を思って?
それもよい。
己が没してもまた次の陽が昇り、都は変わらずに日々の営みを続けるのだろう。
ひとも、ときも、皆、儚い。
今日の日も、また、沈み行く前に最期の力を振り絞って鮮やかな夕映えを見せている。あれは
己が没する前の最期の輝きだ。
沈みきっても尚、己を忘れてくれるなと言いたげに残照は薄紅く都を染め上げている。けれど
それもやがては力尽き、都は黄昏の中に沈んでいき、そして日の力が完全に没した時、都は
闇に包まれる。
月のないこの夜、ただ星だけがほんの小さな煌きをもって闇を恐れる者どもを救うのだろう。
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