無題 第2部 58


(58)
帰り道、愛車のハンドルを握りながら、緒方は今朝の自分を見た時のアキラの冷ややかな
視線を思い出していた。
アキラの目は正直だ。
一見ポーカーフェイスを装いながら、自分を見る視線にこめれられたものは。
苛立ち?憎悪?オレは彼に憎まれるような事をした覚えは……あるな。
無いとはとても言えん。
ではオレの部屋にいる時のアイツは何だ?
何の為にオレの部屋にやって来る?

それは今までにも何度か感じた疑問だった。
コイツはオレの事を一体どう思っているんだ、ただの性欲処理の為の道具か、と。
その可能性も否めない、とは思う。
あの年頃の男だったら、心など関係なく、身体の欲求に従うものだ。
自分がかつてそうだったように。
最初に抱いた女の顔も名前も、もう、覚えてもいない。



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