誘惑 第三部 58
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打ちたい。
突然湧いてきたその気持ちは、気付いてしまったら抑えがたかった。
進藤と打ちたい。
どうして今まで打たないでいられたんだろう。
離れていた時を補うように抱き合う事に夢中で、碁は放っておかれたままだった。
でも、思い出してしまった。打ちたい。いっときだって我慢できない。いますぐに、ここで。
でも、この碁盤は。
突然、背後で物音がして、アキラは驚いて中腰で振り返った。
「わわっ!」
ペットボトルとコップを持ったヒカルが慌てて仰け反った。
「何だよ!いきなり!」
「…ごめん。急に後ろにいたから…」
「声、かけたぜ?」
「え、そ、そう?」
なぜだかしどろもどろになってるアキラに向かって、ヒカルはにこっと笑った。
「ウーロン茶でイイ?」
「う、うん。」
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