平安幻想異聞録-異聞- 58
(58)
『蠱毒?!』
佐為とヒカルは、ふたり声をそろえて聞き返していた。
「えぇ、おそらく」
真夏に来ても、なぜかひんやりと冷たい賀茂アキラの部屋は、また、
どういうわけか、外がどんなに煩くてもその音が聞こえない様になっている。
「……って、何?」
ヒカルは、目をまたたかせて、アキラを見た。
「虫を使った呪の一種だよ。大きなツボにね、たくさんのムカデやヤスデといった
虫を閉じこめて埋めておくんだ。それが飢えて、暴れて、共食いしあって、
最後の1匹になるまで殺し合わせる。その全ての恨みを飲み込んで生き残った
最後の1匹の怨念を、呪いたい相手に差し向けるんだ」
「ムカデ……なんだ、あれ」
てっきり、あの蔦のような異形の正体は蛇かミミズみたいなモノの変化だと
思っていたが、どうやら違うらしい。そんなことがわかっても、ちっとも
嬉しくないけれど。
「蛇やミミズを使うこともあるよ」
アキラがヒカルの思考を拾ったように言った。
「あと、犬とか。犬の場合はね、こう首だけ出した状態で地面にうめるんだ。
で、口が届くか届かないかのところに餌をおいて、そのまま……」
「もういい……」
ヒカルがうんざりした顔で、アキラの言葉を止めた。
「先日のヒカルの傷もようやく癒えて、気の緩んだときにこのような。
姑息なことをする」
佐為が小さく怒りを込めてつぶやいた。アキラが答える。
「蠱毒とはそうしたものです。おそらく実際に仕掛けられたのは、
近衛が暴漢に襲われた夜でしょう。それから、虫達が殺し合い、喰らいあい、
怨念にまみれた最後の1匹にまでなったのが、おそらく昨晩。日数的には
ピタリとあいます。で、その異形はまだ滅びていないんですね、佐為殿」
「はい、アキラ殿の護符のおかげで、一度は退きましたが、おそらく根は
生きているでしょう」
「なるほど。佐為殿、今夜、近衛を僕に預けていただけないでしょうか?」
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