初めての体験 58 - 63
(58)
緒方はヒカルがしたように、顔や首筋を伝っている水滴を舐めた。
「んん…くすぐったい…」
ヒカルが身を捩った。ヒカルの反応を楽しむように緒方の唇が、ヒカルの反らせた首筋を
何度も行き来する。
「ああん…やだ…先生…」
緒方は、ぎゅうっと強くしがみついてくるヒカルを、一旦、自分から剥がし壁に押しつけた。
改めて、ヒカルの全身を眺めた。全身ずぶぬれで、もう服を着ている意味はないだろう。
ヒカルのシャツのボタンに手を掛けようとして、やめた。
「先生…?」
「このままの方が…色っぽいかもな…」
緒方は濡れたシャツ越しに、ヒカルの体の線をなぞった。ヒカルの体がピクッとふるえた。
乳首に触れるか触れないか程度の所を何度も撫でた。その度にヒカルの体が反応する。
「あ…ふぅ…」
緒方が、シャツの上から突起を軽く噛んだ。
「あぁん…せんせぇ…」
甘い声が浴室に響いた。
ヒカルの体に手を這わせていた緒方の体が、徐々に下がっていき、ヒカルの前に跪いた形に
なった。そのままチノパンを脱がしにかかる。濡れた衣服は重く、まとわりついて、スムーズには
行かなかった。ヒカルは緒方が脱がせやすいように、少し体を捻ったり足を上げたりした。
(59)
少し苦労をして、何とかヒカルの下半身を裸にした。緒方が露わになったヒカル自身に口を寄せた。
「ん…!」
ヒカルは瞼を閉じて、顔を仰け反らせた。ヒカルの腰を強く抱いている緒方の腕を掴んで、
体を支えた。緒方の動きにあわせて、ヒカルの声が上がる。
「あ…あん…ん…」
ヒカルの体から力が抜けていった。
「や…せんせい…」
緒方の手が、ヒカルの後ろ割れ目をなぞり始めた。ヒカルの体がビクビクと跳ねる。
そして、奥にある窪みを探り当てるとそのまま指を沈めた。
「あぁ…!」
ヒカルが小さく悲鳴を上げた。緒方は前を口でなぶりながら、後ろに刺激を与えた。
優しく舌と歯でヒカル自身を愛撫し、後ろは指の本数を増やし、捻ったり、さすったりした。
「あ…んん…せん…せ…」
ヒカルはもう自分で立っていられなかった。緒方が腰を支えていなければ、
倒れてしまいそうだった。そんなヒカルの様子を見て、緒方はヒカルのものを
口からだした。そして、ヒカルの片足を肩に乗せ、体を壁に押しつけると、
そのままずり上がった。
緒方は、ヒカルの中心に自分自身を押しつけた。ヒカルの体を支えるように
片手を壁につけ、もう片方の手でヒカルの腰を抱きよせた。
「──────────────!」
先ほどとは比べものにならない快感が、ヒカルの体の中を駆け抜けた。
(60)
緒方が、ゆっくりとヒカルを揺さぶった。ヒカルは片足を緒方の肩に乗せられ、
もう片方も床に届かず、ぶらぶらと揺れている。
「ひぁ……!あっ…あん…」
緒方が動く度、濡れた服が体にこすれた。それが敏感になった体に新たな快感を与えた。
「あ…ふぅ…」
緒方の動きが激しくなり、ヒカルは彼の首にしがみついた。
「あぁ…せん…せ…ん…あ…あん…いい…」
ヒカルの喘ぎ声に煽られて、緒方の動きも一層激しくなる。
「し…進藤…!」
「せん…せい…もっと…あぅん…」
「あぁ───────!」
「くっ!」
浴室にシャワーの流れる音だけが、響いた。
「先生、風呂上がりの一杯やらないの?」
ヒカルの頭をタオルでゴシゴシ拭いている緒方に、ヒカルは訊ねた。
「まだ…昼前だからな…それに…」
緒方は口ごもった。夕べのことが頭を過ぎった。ヒカルの言うことが本当だとしたら、
当分禁酒をするべきだろう。記憶がなくなるまで飲むなど初めてだった。
「嘘だよ。」
(61)
「え…?」
緒方がよく聞こえなかったと言うように聞き返した。ヒカルは悪戯っぽく笑って
もう一度言った。
「嘘だよ。先生が酔って絡んだなんてさ。」
「な…っ。」
緒方が言い返そうとするのを遮って、ヒカルは続けた。
「だって、せっかく遊びに行ったのに、『勝手に一人で遊んでいろ』って
先生寝ちゃうんだもん。 腹立ち紛れにその辺のもんに八つ当たりしてたら、
缶ビールが転がっててさ。オレも飲んでやるって開けたら…。ビューって…。」
緒方は絶句した。とんでもない奴だ。だが、そいつを招き入れたのは酔っぱらった自分だ。
しかも…こんな関係になってしまった…。
「悪いと思ったからちゃんと掃除したんだよ。ちょっと悪戯しただけだよ。」
ヒカルは懸命にいいわけをする。
『やっぱり…禁酒した方がいいかもしれない…』と緒方は頭を抱えた。
「…怒ってる?」
ヒカルが、恐る恐る緒方の顔を覗き込んだ。黒い大きな瞳が小動物をイメージさせる。
「いや…」
緒方はそれだけしか言えなかった。無意識にヒカルから視線をそらしてしまった。
「良かったぁ。」
無邪気に喜ぶヒカルを前に、奇妙な感情が湧いてくるのを緒方は感じた。
『もしかして…オレはこいつに填められたのか…?』
「だってオレ、どーしても先生と、してみたかったんだもん。」
ヒカルが、いつも肌身離さず持っている手帳を抱きしめながら言った。
緒方精次……十段・碁聖二冠ホルダー……
――――初段の進藤ヒカルに敗北した瞬間だった。
<終>
(62)
「ん〜〜〜〜〜!」
ヒカルは、呻いた。身に付けているものは、靴下のみ。その上、両手を前でガムテープで
ぐるぐるに縛られている。足は縛られてはいないが、この姿では逃げるに逃げられない。
―――――――チクショウ!!こんなことなら声なんか掛けなきゃ良かった!!
ヒカルの頬を大粒の涙が流れ落ちた。
男の舌が、ヒカルの涙を舐めあげた。ざらざらとしたその感触と、これから起こることへの
恐怖からヒカルは身震いした。
「ひ…卑怯だぞ…!騙すなんて…!」
ヒカルは、男を睨み付けながら、叫んだ。だが、声を震わせての精一杯の強がりは、
可愛らしく、却って、男の加虐心を煽った。
「騙してなんかいないよ。本当に気分が悪かったんだよ。」
男がニヤニヤと笑いながら、ヒカルに言った。
ヒカルが対局を終え、棋院から出てきたとき、道の端に蹲っている人影を見た。電柱に
寄りかかるようにして、呻いていた。あまりに苦しそうなその姿に、ヒカルはつい声を
かけてしまった。
「あの…大丈夫ですか?」
そう言いながら、肩に手を掛けた。
突然、強く腕を掴まれた。ヒカルは驚いて、手を引こうとしたが、あまりの力にヒカルは
男の前によろめいた。
文句を言おうと顔を上げた。男の顔が目にはいる。「あっ」と、開いた口から、悲鳴が漏れた。
いや、実際には声を出すことは出来なかった。男の大きな手がヒカルの口を塞いだからだ。
そのまま、路肩に止めてあった車に引きずり込まれた。
(63)
以前と同じ廃ビルに連れて行かれるのかと、思ったが今度は違うらしい。ヒカルは
怯えきっていた。また、この男に陵辱されるのだろうか?この前は助かったけど、今度こそ
殺されるのかもしれない…。本物か偽物かは分からないが、ネット上にはその手の画像が
流されている。前にヒカルは、偶然見てしまったその写真のため、長い間、
肉を食べることが出来なかった。
そんなヒカルを気遣うこともなく、男は無言で車を走らせ続けた。
沈黙が怖かった。いつの間にか窓の外は、ヒカルの見覚えのない景色を映している。
「どこ行くの?」
男は答えない。
「ねえ…!オレをどうするの…?」
ヒカルはすすり泣いていた。
車が止まり、ヒカルは外へ出された。周りには何もない。鬱蒼と茂った
山が目の前にそびえている。山道の手前に車を置いたまま、男はヒカルの手を引いて、
どんどん山の奥へと入っていく。
もう空には月が出ていた。昼間は美しいであろう木々や草花も、今のヒカルにとっては、
ただ不気味なだけだ。
やがて、男の足が止まった。山小屋があった。背中を押され、中に足を踏み入れる。
中は意外と奇麗で、きちんと掃除もされていた。『ここがこいつの家なのかな…?』
「ここは冬しか使わないんだ。狩猟小屋だからな。」
男が初めて口を開いた。この男に会うのは二度目だが初めて、声を聞いたような気がする。 呆然としているヒカルの体を、男が突き飛ばした。倒れたヒカルに男がのし掛かってきた。
ヒカルの抵抗を難なく封じると、男はヒカルの服を剥いでいく。夏場で唯でさえ薄着である。
簡単にヒカルは裸に剥かれ、手を縛られた。男のこだわりなのか、靴下だけが、
ヒカルの体に残された。
「この方が受けがいいんだよ。」
男が口の端だけで笑った。
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