クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 59
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礼の言葉と共に光がにぱっと笑うと、少年は目を剥いてその場に立ち竦んだ。
何かとんでもないことでも云われたように硬直して、口をぱくぱくさせている。
――あれっ。
また迷惑がられるかもという程度の予想はしていたが、
ここまでの反応が返ってくるとは思っていなかった。
「え・・・えと?・・・えへへ・・・へ」
とりあえず笑ってみた光に、少年は我に返ったように息を吸い込んで怒鳴った。
「・・・そ、そんな言葉に騙されんでーっ!都人云うのはほんま恐ろしいわ、
どいつもこいつも、・・・アンタなぁ、無駄口利かずに黙ってついて来たらええがな!」
「う、うん」
どう考えてもこの少年の反応は過剰だと思うのだが、何か事情があるのかもしれない。
今はとにかく、件の聖と会える可能性のある場所に連れて行ってもらえるなら
それで良かった。
ずんずん進んでいく少年の後を追いながら、ふと思いついて光はもう一度だけ声をかけた。
「なあっ、オレ近衛って云うんだけどさ、オマエのことは何て呼べばいい?」
「・・・シロ」
「え!?」
シロとは聖が飼っているという白犬のことではないのか。
ぎょっとして聞き返した光を面倒そうに振り返って少年は云った。
「あぁ?社って、そんな珍しい名前でもないやろ。ほんま、イヤミな都人やなぁ」
「あ、・・・ゴメン・・・」
――やしろ、とシロ、を聞き間違えたのだ。
聞こえよがしにフーッと溜め息をついて山の奥へと分け入っていく少年を、
光は慌てて追った。
夜の中でも雪のように目立つ白銀の頭髪をしるべにしながら、
例のシロもこんな色をしているのだろうかと、ふと考えた。
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