初めての体験 59 - 61


(59)
 少し苦労をして、何とかヒカルの下半身を裸にした。緒方が露わになったヒカル自身に口を寄せた。
「ん…!」
ヒカルは瞼を閉じて、顔を仰け反らせた。ヒカルの腰を強く抱いている緒方の腕を掴んで、
体を支えた。緒方の動きにあわせて、ヒカルの声が上がる。
「あ…あん…ん…」
ヒカルの体から力が抜けていった。
「や…せんせい…」
 緒方の手が、ヒカルの後ろ割れ目をなぞり始めた。ヒカルの体がビクビクと跳ねる。
 そして、奥にある窪みを探り当てるとそのまま指を沈めた。
 「あぁ…!」
 ヒカルが小さく悲鳴を上げた。緒方は前を口でなぶりながら、後ろに刺激を与えた。
優しく舌と歯でヒカル自身を愛撫し、後ろは指の本数を増やし、捻ったり、さすったりした。
 「あ…んん…せん…せ…」
ヒカルはもう自分で立っていられなかった。緒方が腰を支えていなければ、
倒れてしまいそうだった。そんなヒカルの様子を見て、緒方はヒカルのものを
口からだした。そして、ヒカルの片足を肩に乗せ、体を壁に押しつけると、
そのままずり上がった。
 緒方は、ヒカルの中心に自分自身を押しつけた。ヒカルの体を支えるように
片手を壁につけ、もう片方の手でヒカルの腰を抱きよせた。
 「──────────────!」
先ほどとは比べものにならない快感が、ヒカルの体の中を駆け抜けた。


(60)
 緒方が、ゆっくりとヒカルを揺さぶった。ヒカルは片足を緒方の肩に乗せられ、
もう片方も床に届かず、ぶらぶらと揺れている。
「ひぁ……!あっ…あん…」
 緒方が動く度、濡れた服が体にこすれた。それが敏感になった体に新たな快感を与えた。
「あ…ふぅ…」
緒方の動きが激しくなり、ヒカルは彼の首にしがみついた。
「あぁ…せん…せ…ん…あ…あん…いい…」
ヒカルの喘ぎ声に煽られて、緒方の動きも一層激しくなる。
「し…進藤…!」
「せん…せい…もっと…あぅん…」

「あぁ───────!」
「くっ!」

 浴室にシャワーの流れる音だけが、響いた。



 「先生、風呂上がりの一杯やらないの?」
ヒカルの頭をタオルでゴシゴシ拭いている緒方に、ヒカルは訊ねた。
「まだ…昼前だからな…それに…」
緒方は口ごもった。夕べのことが頭を過ぎった。ヒカルの言うことが本当だとしたら、
当分禁酒をするべきだろう。記憶がなくなるまで飲むなど初めてだった。
「嘘だよ。」


(61)
 「え…?」
緒方がよく聞こえなかったと言うように聞き返した。ヒカルは悪戯っぽく笑って
もう一度言った。
「嘘だよ。先生が酔って絡んだなんてさ。」
「な…っ。」
緒方が言い返そうとするのを遮って、ヒカルは続けた。
「だって、せっかく遊びに行ったのに、『勝手に一人で遊んでいろ』って
 先生寝ちゃうんだもん。 腹立ち紛れにその辺のもんに八つ当たりしてたら、
 缶ビールが転がっててさ。オレも飲んでやるって開けたら…。ビューって…。」
緒方は絶句した。とんでもない奴だ。だが、そいつを招き入れたのは酔っぱらった自分だ。
しかも…こんな関係になってしまった…。
「悪いと思ったからちゃんと掃除したんだよ。ちょっと悪戯しただけだよ。」
ヒカルは懸命にいいわけをする。
『やっぱり…禁酒した方がいいかもしれない…』と緒方は頭を抱えた。
 「…怒ってる?」
ヒカルが、恐る恐る緒方の顔を覗き込んだ。黒い大きな瞳が小動物をイメージさせる。
「いや…」
緒方はそれだけしか言えなかった。無意識にヒカルから視線をそらしてしまった。
「良かったぁ。」
 無邪気に喜ぶヒカルを前に、奇妙な感情が湧いてくるのを緒方は感じた。
『もしかして…オレはこいつに填められたのか…?』

「だってオレ、どーしても先生と、してみたかったんだもん。」
ヒカルが、いつも肌身離さず持っている手帳を抱きしめながら言った。
 緒方精次……十段・碁聖二冠ホルダー……
――――初段の進藤ヒカルに敗北した瞬間だった。

<終>



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