雪の日の幻想 6


(6)
声を発した瞬間に幻は消え去った。
不自然な体勢で浅い眠りに入ってしまった身体が軋み、僅かに浮かせた腰が軽い痛みを訴える。
ゆっくりと椅子に座りなおし、仰のいて背もたれに体重を預け、深い溜息をついた。
目を開けると、目の前のサイドテーブルの上には、水滴を纏わせた酒の瓶と半ばほど中身の残さ
れたショットグラスがあった。
立ち上がって窓の外を覗くと、雪はやまず降り続いていて、夜の闇に包まれつつある街は、地上の
白い雪明りでほのかに薄明るい。
幻である事など最初からわかっていたから、今更虚しさなど感じようもない。そう自分に言い聞かせ
ながらも、空虚な肌寒さに思わず身を震わせる。
グラスに残るすっかりぬるまってしまった液体を呷ると、アルコールが食道を熱く焼きながら胃に落
ちていく。その熱だけは確かに幻ではなかった。



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