Trinity 6 - 10


(6)
それまでのぞんざいな言葉遣いとは違って、社のくちづけは優しくていねいだった。唇を
横にズラすように愛撫すると、薄い唇の形を確かめるように舌でなぞった。それから歯列
の間に入ると、上の頤、舌の下、すべてを探るようにゆっくりと社の舌は動いた。唾液を
吸い尽くすようにアキラの舌を吸った。吸い尽くすと今度は自分の唾液をアキラに送り、
飲み込ませる。再びアキラの唾液を吸い、自分の唾液を飲ませる。
アキラはくちづけを与えることに慣れていた。ヒカルはアキラのすることをよく覚えた。
時には積極的にアキラの中をかきまわすことさえあった。だが、こんな与えられるくちづ
けを受けるのは久しぶりだった。
唇が解放される頃には、アキラの頬はバラ色に上気し、瞳は潤んでいた。


(7)
「気に入ってもらえたみたいやな」
嬉しそうに言うと、汗で貼りついた切り髪をかきあげ、社はうなじに唇を落とした。白い
うなじを吸うと、細い首筋に沿って丹念に唇が下がり、クッキリと浮かぶ鎖骨まで辿りつ
いた。今度は逆に同じ道筋をゆっくりと戻ると、柔らかな耳たぶを甘噛みする。そんな愛
撫を繰り返しながら、社は左手をアキラの腹にやった。そこにあるヒカルの迸りを人差
指で掬い取ると、アキラの乳輪に輪を描くように擦りつける。その指は何度も何度も輪を
描いた。それなのに、まだらに紅く染まった肌の中でもひときわ紅く、プックリと尖った
中心に、その指はいっこうにやってこようとはしなかった。もどかしい刺激に、アキラは
身を捩り、思わず声をあげていた。
「や…あっ…」
同じ時、アキラの下にいるヒカルも声をあげた。
「あっ、とうや…」
ヒカルの中のアキラが再び欲望をもたげていた。


(8)
「どうしてほしい?」
抜け抜けと社は問う。
アキラはクッと唇を噛み締めた。社に預けていた顔を背けると、腕を上げた。
「それはダメや」
すぐにその手は社に捕らえられた。自ら胸に手をやろうとしたアキラの目的は果たせない。
「ちゃんと言わなアカン。ちゃんと言えたら、ご褒美をやるで」
アキラは掴まれた腕を振り上げて、社を打ち据えようとした。だが、手首をしっかりと握
られていて、拳が社に届くことはなかった。
「ゆうてみ」
うなじにまた一つくちづけを落とし、耳のそばでささやく。
アキラはその指図に抗うことはできなかった。顔を背けたまま、アキラは口を開いた。
「……ボクの…、胸を…、さわって……」
「よーし、エエ子や」
アキラの望みはすぐに叶えられた。待ち望んだ快感が体を走る。
アキラを見上げるヒカルは、目の前の光景が信じられなかった。
くちづけを受けるアキラ。快感を堰き止められ焦れるアキラ。行為をねだるアキラ。その
姿はいつもの自分の姿だった。これまで見たことのないアキラがそこにいた。優しく、力
強く自分の体を開いていったアキラとは、まったく別人のアキラだった。アキラは今、顎
を大きくのけぞらせている。さらけ出された白い喉がかすかに震えているのがみえた。
自分以外の人間がアキラに快感を与えている。その証拠は今、自分の中にある。再び高ま
ったアキラのペニスは、確かに自分の中で大きく脈打っている。そして、快感に導かれ、
アキラの腰がゆるやかに動き始めたのだ。
「あっ……」
ヒカルはとまどいの声をあげた。


(9)
ヒカルとアキラはつながっていた。
自分の中で確かにアキラが動いていた。
それなのに、アキラは遠くにいってしまった気がした。
社にアキラを奪われてしまった気がした。
「塔矢…、塔矢…」
アキラを取り戻したくて、両手を伸ばして名前を呼んだ。
その想いはアキラに届いた。アキラはゆっくりと頭をあげると目を開き、ヒカルを見た。
見慣れない赤い目だった。だが、その瞳はいつもよりもっと深く、優しい色をしていて、
不安なヒカルの心を落ち着かせた。
「これも、ボクなんだ…。でも…、キミが、好きだ……」
そう言うと、アキラは手を伸ばしてヒカルの手をつかんだ。アキラの手は熱く、しっとり
と汗ばんでいた。


(10)
「そうや。置いてけぼりはカワイそうや。仲良うせんとな」
社は楽しそうに言った。
「塔矢、オマエがカワイがるか。2人ともオレがカワイがってやってもええんやで」
恥知らずな言葉にキッとアキラが社をニラミつけた。
「わかった。わかった。進藤に手は出さん。オマエとヤれれば十分や。オマエかてまだ1
回ヤッたばっかりや。もっと続きがしたかったんやろ。そっちはそっちで楽しませてやら
なな」
あからさまな社の言葉はアキラを驚かせた。
「なぜ…、そんなこと……」
「そんなん最初から知ってるわ。寝てる思たのは早とちりやったな。明日のこと考えてた
ら、オマエらが始めよったいうわけや。明日の対局が気にならんとは、オマエらのが大物
いうことか…」
そう言うと社はフッと笑った。
「フットランプだけでも慣れれば結構見えるもんや。澄ました顔してるオマエから仕掛け
るとはな」
見られていた。上気していたアキラの頬は、羞恥のため一層赤みを増し、それが社の目に
はさらに蠱惑的に映った。視線を逸らしたアキラの喉に、再び社はかじりついた。アキラ
とヒカルの手はつながれたままだった。



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