Birtday Night 6 - 10


(6)
…トクントクン。鼓動がきこえてくる。
彼が生きている証。ボクの胸でも同じ音が響いている。
生まれてきて、よかった。そう初めて感じた。
嬉しい。ボクを大切に想ってくれる人がいる。
血のつながりもないのに、自分とは別の人なのに、こんなにもボクのことを好きでいてくれる。
――数ヶ月前、進藤が自分の気持ちを告白してきて、好きだと言われて。
ボクは動揺した。
『オレのこと嫌い?』
嫌いじゃない。でも……。。
キミに対して、そんな気持ちになれるか分からない。そう告げると、
『じゃあ、待つよ』
進藤はさみしそうに、けれど真っ直ぐな瞳で、
『何年でも待つ。おまえがオレのことを好きになるまで、ずっと』
きっと塔矢はオレのこと好きになるよ――。


(7)
あれから進藤はボクに積極的にアプローチをかけてきた。
でもボクは正直なところ、そんな進藤に戸惑っていた。
今まで囲碁以外のことに興味を持ったことはなかったし、恋愛なんてしたことないし。
進藤の気持ちはイヤではなかったけれど。
ボクの心は曖昧で、恋と友情の境界線が分からなくて。
それに――人の気持ちは変わるものだから。
たとえボクが進藤を好きになったとしても、今度は進藤のほうがボクを好きでなくなるかもしれない。
そう思うと、よけいに、ボクは自分の気持ちに答えを出せなくて。だけど。
「………」
今、この胸の中に芽生えた感情。
泣きたくなるほど温かい、ボクの心を満たしていくモノ。
――進藤に触れたい、と思った。
もっともっとキミのことを知りたい。キミの気持ちを確かめたい。
顔を上げた。進藤がボクを見つめていた。
…信じてもいいの?キミはボクを見捨てたりしない?
もしいつか碁を打てなくなっても、キミはボクを好きでいてくれるだろうか。
ゆっくりと瞳を閉じる。
くちびるに温かい感触が下りてきた。
初めてのキスは心を溶かすように温もりが伝わってくる……。


(8)
「…あ、そうだ。プレゼント用意してたんだ。気に入ってもらえるといいんだけど」
そう言って、進藤は持ってきていた紙袋を差し出した。
「なに?」
袋の中には和紙で包装された正方形の箱が入っていた。
「開けてみていい?」
進藤が頷いたので、ボクは箱を取り出した。丁寧に包装紙をはがしていく。
現れた白い箱。開けてみると中に碁笥が入っていた。
ゆっくりと蓋を取る。
「――」
目に飛び込んできたのは緑。
深海の底を思わせる趣のある色をした緑の碁石だった。
「その緑、すげー綺麗だよな。何か…おまえの色だって思った」
深く吸い込まれそうな色をした石。
ふれると、心地よくて、すぐに指になじむ感触。
「いやぁ、本当、何にしようか悩んだんだぜ。おまえが喜びそうなものなんて思いつかねぇしさ。
囲碁ショップで見つけたんだ。囲碁バカのおまえにはピッタリだろ?…って、わわわっ!」
言ってから、しまったと思ったのか、進藤は慌てて自分の口を両手でふさいだ。
ボクは胸が詰まって 「――ありがとう」 それだけ口にするのがやっとだった。
心からの感謝の言葉。嬉しかった。胸がいっぱいになった。
これが進藤の中のボクの色。進藤から見たボクはこんな風に映っているのか。
…来年の進藤の誕生日にはボクもお返しに碁石を贈ろう、と思った。
彼は碁笥の蓋を開けて、何の変哲もない石に不思議そうな顔をするに違いない。
真っ白な碁石。ボクを照らし出してくれる白い光、それがキミの色……。


(9)
「――雪、ひどくなってきたな」
窓の外を見て、進藤が言った。
視界が白く染まっている。かなり吹雪いているようだ。
こりゃ帰れそうにないな…呟いた進藤に 「泊まっていけばいいよ」 ボクは言った。
進藤の表情がパッと明るくなる。
「えっ、いいのか? ラッキー! …あ、でも今日は塔矢先生達いないんだっけ?」
進藤は遠慮したような口ぶりになって、
「あー、じゃあ、隣りの部屋使わせてもらうわ。客用の布団借りていいか?」
「――いいよ、ここで。一緒に寝よう」
進藤は一瞬ぽかんとして、次に驚いたように目を見開いた。
「と、塔矢…それって?」
訊き返してくる。
ボクは伏せ目がちになりながら、
「キミと一緒にいたいんだ」
二人っきりで夜を過ごしたことはまだなかった。
今日、初めてキスをして、少し早い気もするけれど。
でもボクは自分の気持ちを受け入れてしまったから。もう大丈夫だから。


(10)
「塔矢。それって、そういう意味にとってもいいんだよな」
「…うん…」
頷いたボクを進藤はまじまじと見つめている。
その様子に、ボクは僅かに苦笑して、
「――ボクのいうことが信じられない?」
言ってみた。
すると進藤は慌てて、
「あ、わわ!そんなことっ、いやだって何か今日、塔矢、変だし」
「…変?」
「だって、妙に素直じゃんか。いつも何かにつけては怒ってばっかなのに」
ボク、そんなに怒ってたかな。
確かに進藤とはしょっちゅうケンカしていたけれど。
「――そうだね。ボクがおかしいとしたら、きっと誕生日のせいだ。
誕生日が終わったら、気が変わるかもしれないよ?」
ボクがいたずらに口にすると、進藤は、
「なっ、もうあんま時間ないじゃんか!」
時計を見て、大慌て。その様子にボクは小さく笑った。



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