検討編 6 - 10


(6)
「塔矢…」
熱にうかされたような掠れ声で、名を呼ばれる。
その声に煽られる。流されてしまいそうになる。
「塔矢…好きだ。」
ぷつり、と、アキラの中で何かが切れた。
自分自身を繋ぎとめていたロープの、最後の一本が断ち切られて、そのままアキラは熱い奔流の
中に飲み込まれた。
アキラの身体を探っていたヒカルの手はもはや荒々しくアキラのセーターを捲り上げ、シャツの
ボタンを外そうとする。
「ああ、もうっ…!」
思うようにボタンが外せなくて、苛立たしげにヒカルが小さな声をあげる。
その手を制してアキラが捲くれ上がったセーターを頭から引き抜き脱ぎ捨て、更に残りのボタンを外し、
シャツを床に放り投げる。
一瞬、びっくりしたように手を止めたヒカルはすかさず自分の着ていたトレーナーとパーカーをまとめて
脱ぎ捨てると、アキラの手が伸び、ヒカルの身体を抱きしめた。
そしてもつれ合うようにソファに倒れこむ。
直接触れ合う肌と肌に、その熱さに目が眩む。
激しく響く心臓の音が、どちらのものなのか、もう、分からない。
「…塔矢、」
擦れた声で名を呼ぶ唇に、貪りついた。


(7)
もう、お互い、夢中になって噛り付くように唇を合わせ舌を絡め、唾液を注ぎ込み、吸い上げる。
息を継ぐ間も惜しい。
それでも、のぼせたように身体は熱くなり、息は荒くなり、抑えようもないエネルギーが今にも爆発
しそうに身体の内側から突き上げてくる。
「あっ…」
脚に当たる熱く硬い塊を感じて、アキラは思わず腰を引いた。
逃げるアキラに、ヒカルは更にそれを押し付けてくる。
ぶつかったその先の自分自身も同じようにいきり立っている事に気付いて、アキラは全身がカアッと
熱くなるのを感じてぎゅっと強く目をつぶった。
向こうもそれに気付いたのだろう。
硬く勃ち上がったそれでアキラを刺激するように押し付け、擦るように腰を動かす。
「や、やぁっ…」
ソファに横たわっていた身体を起こしかけ逃げようとする肩を、ヒカルの手が押さえつけた。
「塔矢っ…!」
そして伸び上がってもう一度唇を重ねあわそうとする。唇が重なれば下半身もまた重なる。
ぶつかり合う熱から更に逃げようとしたアキラを留めようと、ヒカルは咄嗟にアキラの中心を握りこんだ。
「あ…っ…!」
思わず見開いてしまった目の先に、ヒカルの瞳がある。
「塔矢……」
外の光を映した明るいの瞳の色に吸い込まれてしまいそうだ。
その瞳を見つめるアキラに、擦れたような低い声が届く。
「塔矢…逃げないで。」
懇願するような声の響きに、縋るような瞳の色に、動けなくなってしまう。
まるでアキラの身体に問いかけるように、ヒカルは握りこんでいた手を緩め、大事な宝物を扱うように、
そっとそれを撫でた。


(8)
ヒカルの動きに、アキラはヒカルを見つめたまま小さく頭を振る。
ヒカルの手がアキラのズボンのベルトを外し、ジッパーを引き下げ、そしてアキラの下着の中に潜り込む。
「!」
直接、触れられた刺激に、反射的に目をつぶった。
目を瞑ってしまった分、自分に触れる彼の手の動きをよりリアルに感じてしまう。
恥ずかしい。恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
自分の身体がこんなふうに反応してしまうなんて。
それだけでも恥ずかしいのに、それを知られて、触られて、触られた事で余計に反応してしまい、それが
相手には隠しようも無い。
「塔矢…イヤ…?」
イヤ……じゃない。違うんだ、ただ、
「だ…って、」
だって、どうしたらいいかわからない。こんな、こんな事って。
もう、頭は朦朧として、何かを言葉を探す事もできない。
身体の芯を柔らかく弄るものとは別に、胸元に何かが触れるのを感じる。
愛おしむようにそっと触れる唇の、その感触に眩暈がする。
ここがどこで、いま自分が何をしているのか、現実感が全く無い。
何かを思う間もなく、押し寄せる圧倒的な感覚が思考をどこかへ追いやってしまう。
「あ、」
何か、今までとは違う感触のものが敏感な場所に触れて、アキラは小さく声をあげた。
「ああぁっ!」
その次に熱く湿ったものに自分自身を包まれれ、更に鋭い悲鳴を漏らしてしまった。
「や、あ、あ、あ、」
絡みつき、舐りあげる未知の感覚に飲み込まれ、流される。
全身が大きな脈動に包まれて、弾けそうに熱く膨れ上がるのを感じる。
押し寄せる快感の波に抗えずに、あっという間にアキラはその熱を勢い良く放出して果てた。


(9)
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、」
荒く息をついている彼の顔を覗きこむようにして、彼の名を呼ぶ。
すると彼はゆっくりを目を開けて、自分を認める。
潤んだ瞳がそれでも真っ直ぐに自分を見ていて、そこに込められた熱と、紅潮した頬に、上気した表情に胸が締め付けられる。
「塔矢、」
半開きに開かれた唇に指を伸ばして輪郭をなぞり、そっと頬を撫でた。
それから目元から零れる涙を優しく拭う。

これは…誰だろう。
アキラは思考の戻らない頭で、自分を覗き込む顔を、愛しげに触れる指先をぼうっと眺めた。
「とうや、」
この声は誰のものだろう。
聞いた事も無い、こんな優しい、熱っぽいい響きは。
名前を呼ばれるだけで、好きで好きでたまらない、そう言われているように感じてしまう。
「とうや、」
けれどその声は低く掠れてどこか苦しげでもあって。
手を伸ばして頬に触れる指を捕らえ、指先にそっとキスした。
爪の磨り減った指先が愛おしい。
ずっとキミに会いたかった。
ずっとキミを、待っていた。
そんな苦しそうな顔をしないで。
大丈夫だよ。ボクもキミが好きだから。
そして目を開けてヒカルに微笑みかけ、彼の目を見つめながら手を伸ばし、彼の首に腕を絡めた。


(10)
「…とう…や…っ…!」
抱きついてきた熱い身体をヒカルは強く抱きしめた。
頬に熱い吐息を感じる。
「しんどう…」
熱い擦れ声が自分の名を囁くのを聞いて、唇が頬に触れるのを感じて、全身が熱く燃え上がったような気がした。
背を抱きしめていた手を腰に滑らし、更に剥き出しにされた双丘に辿りつき、そっとそこを撫で擦った。
すっかり弛緩したアキラの身体はヒカルの手に委ねられて、ただヒカルの手の動きに甘い息を漏らす。
「塔矢…」
それからヒカルは中途半端にアキラの脚に絡まっていたズボンと下着を剥ぎ取った。
「……ん、」
「とうや……」
耳元で彼の名を囁きながら彼の身体を横たえ、素早く服を脱ぎ捨て、そしてアキラの足を割り開く。
「あ……な、に……?」
「塔矢、ちょっとだけ、ガマンして…」


「え……あ、う、うわっ!」
「ごめん、塔矢、でも、」
「や…やめ、やめろっ!なにするんだっ!」

「い、いた、痛い、痛い、痛いってば!イヤだ、やめろ、進藤!!」

「やめろっ!放せっ!!」



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